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アジアウェーブ2001.7・8月号
ビルマ──微笑みと苦悩
目次

●ビルマの人々
大場玲次


●ビルマはいまどうなっているのか?2001.6月  田辺寿夫

●ビルマ問題について
根本敬


●ビルマ──微笑みと無常の国
森本綾


●ビルマの現状メモ
ビルマの現在についてのメール


●教育に表れつつある歪み
大橋環


●ビルマの民主化と民族問題
五十嵐勉


●終わりの見えない「武装抵抗闘争」若き司令官ボ・ジョー
大場玲次


●タイ・ビルマ国境の難民
支援する日本のビルマ人たち
久保真由美


●カレン難民キャンプから
中尾恵子


●タイ・ミャンマー国境の町
メソットとミャワディー
森清春


●インターネット上のビルマ情報
箱田徹


●日本の中のビルマ
「高田馬場で会いましょう」
田辺寿夫

●在日ミャンマー人の困難
安楽怜



マンダレー郊外の寺院門前
イラワジ河中流域のパガンの遺跡群
首都ラングーン(ヤンゴン)のシェダゴン・パゴダで、一心に祈り続けるビルマ女性
写真/大場玲次
ビルマ・パガンの寺院遺跡の娘
写真/五十嵐勉
●国名──ビルマとミャンマー
 なぜビルマ(ミャンマー)と書かなければならないのか?──一九八八年、民主化闘争を武力で鎮圧して登場した軍事政権は、翌年になって、それまでの英語国称BURMAをMYANMARに変更した。軍事政権には正当性がないと主張する民主化勢力の人たちは、この変更を受け入れない。BURMAに固執している。日本でも、政府や報道機関はミャンマーと表記するようになったが、軍事政権をよしとせず、民主化陣営に心を寄せる人たちはビルマを使い続けている。筆者もそのひそみにならう。
 民主化闘争が高揚した一九八八年から数えてすでに一三年。この間何が変わったのだろうか。軍事政権の強権支配は相変わらず続いている。その軍事政権に対峙し、民主化を求めて声をあげている人たちがいる。そう、アウンサン・スーチーさんをはじめとするグループだ。これが変わったことのひとつである。一九八八年までの二六年間は、マサラ(ビルマ社会主義計画党)時代と呼ばれ、やはり軍人主導のもと、マサラの一党独裁が続き、反対勢力は存在すら許されなかった。マサラは一九八八年の民主化闘争によって解体した。
 一九九〇年には総選挙が実施され、アウンサン・スーチーが書記長を務める国民民主連盟(NLD)は、総議席四八五のうち三九二を獲得した。ところが民主主義のルールに基づくならそこで行なわれるはずの政権委譲が行なわれなかった。軍事政権が阻んだのだ。なんと今に至るまで、国会は一度も招集すらされていない。NLDは一部の少数民族政党と結んで国会代行委員会を作り、国民の付託に応えようとしているが、これも政府から激しく弾圧されている。選挙で示された国民の意思は無視されっぱなしである。
●さらに悪化する経済
 経済はどうか。GDPは年々五〜一〇%の伸びを見せているという数字を軍事政権は発表している。しかし、人々の暮らしが楽になった様子はない。インフレ・物価高騰がすさまじい。こちらは毎年一〇〜二〇%もの上がりようである。去年、政府は公務員の給与を一挙に五倍引き上げた。そうせざるを得ないほど人々の生活は苦しい。為替レートを見ると、公定では一ドル=六〜七チャットなのが、実勢では、今年の五月に一ドル=六八〇チャットを越えた。経済は破綻寸前である。しかし、人権問題で世界の批判にさらされている政府にとって、国際的な経済支援を得るのはむずかしい。
 その人権。公党であるNLDでさえ表立った政治活動が封じられている。市民的権利・社会的権利は根こそぎ奪われている。開発にともなう強制移住も多い。この国では土地は国有であるから、人々は簡単に追い出される。行く先はあてがわれても自力で家を建てなければならない。労働奉仕という名の強制労働への駆り出しも日常茶飯のこと。これは昨年ILOが問題にし、国際的な機関の活動からビルマを排除する制裁措置が発効されている。ある日、突然引っ立てられて軍の弾薬運びをやらされるポーター狩りの恐怖も、とくに少数民族の人々の間に根強い。
●教育の劣化
 教育もひどい。一九八八年以後、閉鎖されている時期の方が長かった大学は去年から再開されている。とは言っても、学生が集まることを警戒する政権は、キャンパスを都心から離れた所へ分散させるなどの措置をとっている。さらに、教員の不足、勉学期間の短縮などもあいまって、教育水準の低下はおおうべくもない。学校に行ってもろくに勉強できない。仕事もない。金とコネのある者は日本など海外をめざす。国に残った若者たちが前途への展望をなくして、この国では簡単に手に入る麻薬に手を出しかねない。麻薬のまわしうちからエイズに感染する若者が増えているとも言われる。
 そんななか、今年に入って軍事政権とアウンサン・スーチーを含むNLDとの対話が始まっている。経済的な困難を抱え、国際的な圧力を受けている軍事政権としては、なんとか形をとりつくろいたい。一方、NLDとしては、圧倒的な力を持つ軍事政権と対等の話し合いはできないにせよ、国民の期待を幾分かでも果たしたい。今回は対話のなかに、NLDが加えるべきと主張してきた少数民族勢力は含まれていないが、国の運命にいくらかの光明を見出そうとして対話に参加しているものと思われる。

ビルマはいまどうなっているのか
─ビルマとミャンマーの間─   ビルマ市民フォーラム
田辺寿夫