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リヤカーを改造したようなリキシャに乗った著者|
タイ側から見た友好橋
左側はミャワディー。右は国境のモエ川
●メソットとミャワディー
 バンコクから北西へ三〇〇q程行ったところに、タイ側の町メソットがある。ここはバンコクやアユタヤ、チェンマイといった観光地とは違い、それほど見るものがない町だとは言える。しかし、ここにも日本人を含む欧米の旅行者たちの姿が見られる。長期旅行者やボランティア関係者が多い。
 街を歩くとタナカという白い粉を顔に塗ったミャンマー人の姿が目に付く。街の真ん中では、宝石関係者が昼間から集まってその時間帯はかなり活気がある。近くには市場があり、露店や商店などもたくさんあって、タイ人もミャンマー人も混ざり合って国境の町を意識させる。
 いつもならもっぱらメソットを楽しんでいたのだけれども、今回は国境のモエ川をはさんで対岸の街、ミャンマー側のミャワディーの町へ行ってみることにした。

●友好橋とイミグレーション
 市民の足として使われているロット・ソンテーオ(ピックアップトラック)で、国境付近まで行ってみる。現在は友好橋がモエ川上にかかっているので、物資や人を載せたトラックが行き来して活気を見せている。物流も人の往来も昔とは比べものにならないくらい増大しているようだ。
 まずはじめにタイ側のイミグレーションで出国カードに記入してパスポートにスタンプが押される。これで出国はオーケーで、ミャワディーへ向け歩きだす。
 後ろから人を満載したトラックが追い越してゆく。橋の真ん中まで行くと急に止まり、全員降りるよう指示される。どうやらタイ側で不法滞在していたミャンマー人だったらしく、残念そうな顔をしながら自分の国へと帰って行く。
 五〇〇メートル程歩くとミャンマー側のイミグレーションがある。そこで入国カードを書き、タイ人以外の外国人は入国料五〇〇バーツまたはドルではらわなければならない。そこにパスポートを預けると、フレンドリーな二人の青年が町を案内してあげると言ってくる。あとで法外な料金をふっかけて来るかもしれないとわかっていても、彼らに付き合うことにした。

●リキシャ・ツアー
 すぐそばにはリキシャーが数台待機している。中の一人が手を上げたので、そのリキシャーに乗り込んだ。ガイド二人が両脇に乗り、こぐお兄ちゃんと坂を登る時に手伝うお兄ちゃんの計四人を引き連れることになってしまった。本当は一人でゆっくり歩きたかったのだけれども、こうなったら仕方がない。
 この町で一番大きいシュミンワンパゴダに、行ってみる。様式としてはラオスのビエンチャンにある寺に近い気がする。東西南北四方向に仏陀が置かれていて、対面するたびに頭を地面に数回つけるミャンマー式の祈り方で、その後、何度も地面に頭をつけることになった。それほど仏陀に対面する数が多かった。
 まだ完成していないけれども、大きなワニの上にパゴダが載ったクロコダイルパゴダを見に行く。アイデアは面白いのだけれども急造の見世物という感じだったので、ガイドされる側にとっては興味をひくものではなかった。そこの寺のえらいお坊さんが出てきてまた数回地面に頭をつけてしまった。
●重畳とした山影
 そこからは、はるか北西に二〇八〇メートルあるドナ山が見える。タイ側にも山々が見えて、その景観は気持ちのよいものだった。
 リキシャーに乗っていると、たまにはエンジンのついてない乗り物もいいかなと思わせる。往来する人々の顔がたくさん見えて、なにかこの町の住人の一人にでもなってしまったかのようだ。
 日常品やお土産なんでも売っているベイノン市場に行く。ほとんど正方形で、その中はびっしり詰まっている。昼前は賑わっているのだけれども、私が行ったころはもう遅かったので、開いている店もまばらだった。メソットの市場に比べると貧弱さは否めない。

●ミャンマービール
 天気のよい日だったので、咽喉が渇いてビールが飲みたいなと思い、彼らが薦めるグリーンリーフレストランに行ってみる。モンドセレクションにも入賞したこともあるミャンマービールを飲んでみる。シンハービールに比べると飲み口すっきりのさっぱり味で、それをピッチャーに入れて持ってくる。一杯五〇バーツだけれどもガイドやリキシャーのお兄ちゃんにもおごったので二杯頼んだ。時間があればミャンマー料理にもチャレンジしてみたかったのだけれども、今回はパスして次にアンティークショップを覗いてみる。
 たくさんのがらくたが並んでいるように見えるが、見る人によっては価値があるものかもしれない。お世辞にも管理は行き届いていなくて、私にとってはがらくたとしてしか目に映らなかった。インド系の店主は、売れる価値のないことがわかっているのか商売っ気もなく中の方で家族となにやら話している。このような店をガイドが薦めるのだから少々憂鬱になってしまった。

●ミャンマーの素顔
 建築現場には、女性やみすぼらしい身なりの人々が働いているのがちらっと見えた。彼らの表情の暗さに一見平和そうに見えるこの町の裏の表情が覗く。
 とにかく町を一通り見てガイドやリキシャーと別れることとなった。ガイドの二人は始終気持ちよく接してくれた。しかし、案の定リキシャー代とガイド料が請求されたのは言うまでもない。ミャンマー側イミグレーションで自分のパスポートを受け取って、友好橋の真ん中でガイド二人と別れた。ガイドは案の定、一人一〇〇バーツずつ要求してきた。二台のリキシャの若者たちも同じ額だけ求めてきた。合計四〇〇バーツだ。ところが財布にはあいにく一〇〇バーツ札が足りなかった。しかたなく、二人で一〇〇バーツで泣いてもらった。一〇〇バーツずつ渡した。「しょうがない、ま、いいか」と気のいい連中だった。ほんの三時間ぐらいだったけれども、私はミャンマー人との友好的な時間が持てたかなという感慨をもちながら、タイ側イミグレーションで入国スタンプを押してもらった。
 国境をはさんで、メソットとミャワディーには確実に格差が存在していた。決定的な経済力の差がある。でも自分の目で見て、人と話してミャンマーという国に触れることができたということは、今回の旅行の中では収穫だったと思っている。

(フリー・カメラマン)
タイ・ミャンマー国境の町
メソットとミャワディー
森 清春