アジアの踊りその4

インドネシア

バリ舞踊

富沢香寿美

 

バリ舞踊を踊る筆者

 

 

バリ舞踊を踊る筆者

 

 

「おはよっございまーす」だれだ? こんなに朝早く。
 外を見ると先生がもうパサール(市場)から戻り、買ったばかりの果物をこちらに差し出している。ああ、ここは先生の家。ペスタ・スニの特訓中なんだっけ。
 ペスタ・スニはバリ島のあらゆる芸術が集まる年一回のお祭り。芸術家たちは腕を競い合う。その中でも一番の目玉がカブパテン(県のようなもの)どうしで競われる演奏と踊り。それぞれがカブパテンの名誉をかけて熾烈な戦いを繰りひろげる。
 ある年、先生のチームの踊り手が本番三日前に交通事故に遭い、重体になってしまった。さあ、どうしよう。いまさら代役は立てられない。もう、だめだと思ったそのとき、彼女は来た。目はうつろだったが、最後まで踊りとおした。そしてチームはみごと優勝。なんだかすごすぎる。
 バリの踊りの見どころは、身体の動きだ。あの、うねる、そしてはじけるガムランの音を視覚化したらこうなるだろう、というそのままに身体が動くことだ。そしてまばたきもせずにずっと遠くを見つめるあの目だ。友達は踊っていると神様が降りてくると言う。だから踊る前にはお祈りをし、聖水をかけてもらって浄めるのだと。バリでは踊ることが神様に捧げる供物なのだ。
 バリの踊りは、お寺のどこで踊るかによって大きく三つに分けられる。よく見かける一般的なものは、バリバリアンといって、お寺の一番外側で踊られるものだ。
 私がペスタ・スニで踊るのも、バリバリアンの一つで、白鷺のレゴン。同じ衣装を着けた四人が仲良くエサをついばんだり、けんかしたりする白鷺の様子を表したものだ。レゴンは四人そっくりに見えるのが理想的で身も心も四人が一つにならなければならない……のだが、はたして私たちはバリ、ジャワ、中国、日本と国際色豊かなだんな様とそれぞれ家庭を築いている四人。おまけに子供付きの私。一つになれる日は来るのか。
 日本での練習でまずたいへんなのは、場所探し。楽器演奏といっしょにやろうと思うともっとたいへん。そしてもう一つたいへんなのは練習時間。複数でやることの多いバリ舞踊は、仕事などで忙しいみんなのスケジュールを合わせるのも一苦労。そんなこんなでバタバタ来てしまった。
「さあさあ、練習」先生は踊り始める。「さあ、もう一回」ずっとうしろについて踊っているうちに一つになるもならないもなくなってくる。ただ踊る。心の中に喜びが湧いてくる。みんなが鳥になる。
(富沢香寿美/バリ舞踊家)

 

●興味ある方は、羽田と朝霞台でバリ舞踊講座をやっていますので、ご連絡下さい。ン0424-71-2708富沢まで香寿美まで

 

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