サモアの人々と暮らし

マノノ島の週末

サモア流里帰り

上妻直子

 

美しいマノノ島の風景

 

アピア市内のバス・ターミナル

 

週末のバスは人々でビッシリと込み合う

 

マノノ島遠景

 

ウポル島からは小さな船でマノノ島に行く

 

海で遊ぶマノノ島の子供たち

 


「ナオコ、今度の週末、マノノ(Manono)島に遊びに来ないか?」と同じ職場(サモア保健省)の同僚、ヨアネ・ラファエレさん(31歳)が私を誘ってくれた。彼は奥さんのテウイラさんと小学校、幼稚園に通う二人の子供とともに首都アピア郊外に家族四人で暮らしている。大所帯家族が一般的なサモアの中でも、最近はヨアネさんのように核家族で暮らす人たちもアピアを中心に徐々に増えてきているようだ。
 マノノ島は、彼の奥さんの実家がある島。私はその誘いに応じて、出掛けることにした。
●マノノ島まで
 マノノ島は、ウポル島、サバイイ島に次ぐサモア第三の島で、ウポル島の西側にある船着き場から小さな客船が不定期に運航している。首都アピアから船着き所に行くには、中央市場の側にある公共バスターミナルから一時間程の距離をバスに揺られていく。
 土曜の昼下がりのバスターミナルは、買い物を終えた人々でごった返していた。サモアのバスには、日本のようなきちんとしたタイムスケジュールなんてものは存在しない。大体@るだろうと思われる時間に合わせて、ひたすら待つのみである。ターミナルでバスを待つこと約一時間半、ようやく目的のバスが現れた。人々は遅いバスの到着に対して何の不平を漏らすことなく、次々とバスに乗り込んでいく。椰子の葉で編んで作ったかごに主食のタロ芋をいっぱい入れて運ぶ若者、大きな花柄のワンピースを着た女性、腕や足にサモアの伝統的な柄のタトゥー(入れ墨)を入れた中年男性など……庶民の生活の足であるバスには、あらゆる種類の人々が共に乗り合わせている。
●知らないオバサンの膝の上で
 乗ってみるとバスはかなりの混雑。私がバスに乗り込むと、近くに居て偶然目が合ったオバサンが、自分の膝をポンと叩いて「ここに座りなさい」というジェスチャーをした。サモアではバスの中で立つことは法律で禁止されており、席が空いていない場合には、人の膝の上に座るのが普通だ。サモアでは生活の様々な局面で、相互扶助の精神が根づいている。助ける側も助けられる側も、互いに当然のことのように受け止めている。すし詰め状態のバスの中、私は見ず知らずのオバサンの膝の上で快適な道中を過ごすことができた。
●静かで平和なマノノ島
 ヨアネさんと家族にとって、マノノ島行きは、久しぶりに家族・親戚と再会する、ちょっとした帰省のようなものでもある。「最近、仕事で毎日忙しいからね。この週末はマノノでゆっくりリラックスしたいよ」ヨアネさんは私にそう呟いた。船で島までは約三〇分。二〇人程度で満員になってしまう小さな船に乗ってマノノ島を目指す。
 マノノは二時間も歩くと島を一回りできてしまう程の小さな島だ。一台の車も走っていなければ(そもそも車が通れる舗装された道路がない)、一匹の犬もいない(島では犬を飼うことを禁じている)し、エメラルドグリーンの海に囲まれた何とも静かで平和なところだ。
 島には四つの村があり、そこで暮らす人々は主に近海漁で生計を立てている。島を散策すると、フォトジェニックな風景にたくさん出逢う。海に向かって立ち並ぶ椰子の木々、色とりどりの美しい南国の花々、小舟に乗って遊ぶ子供達の姿……こうした景色を目の当たりにしていると、自ずと穏やかな気持になっていく。
●マノノ島の時間と癒し
 ヨアネさん家族が奥さんの実家を訪れるのは、冠婚葬祭や親類・友人の来訪といった特別な行事のある週末の場合が多い。都会に住む家族が週末に田舎の実家を訪ねるという光景は、伝統社会が色濃く残るサモアで一つの新しいライフスタイルとして定着しつつあるようだ。マノノ島には、都会の便利さは全くないけれど、ゆったりとした時間が常に流れている。日頃、公務員として忙しく働くヨアネさんにとって、家族と共に過ごすマノノ島の週末は安らぎの一時となることだろう。かつては「パパラギ(白人)には暇がない」と時間に追われて過ごす西欧人の現代社会を批判したサモア人にも、ひょっとして癒し≠ェ必要な時代が近づいてきているのかもしれない。

 

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