サモアの人々と暮らし

愛の誓いとブタの丸焼きの関係

サモアの結婚式事情

上妻直子

 

シリパさんの結婚式の記念撮影。筆者は新婦の右から二人目

 

神父を前に結婚の誓いをする新郎・新婦

 

サモアの伝統的な儀式ファイン・マットの贈呈

 

結婚式のあとのパーティでは、新郎・新婦を含め、皆で踊りまくる

 


 サモア人は老若男女問わず、恋愛や結婚の話が皆大好きだ。初対面であろうと、「結婚しているのか?ボーイフレンドは?サモアの男はどう?」などの唐突な質問が挨拶代わりに飛んでくる。今回は「サモアの結婚式事情」について触れてみたい。
 恋愛・結婚の話が好きなわりに、サモア人は非常に保守的でもある。自由恋愛、結婚が一般に浸透している現代でもなお、サモアの人々にとって「結婚」は、当人同士の繋がりはもとより、家と家の結合の意味合いも大きい。これは、サモアの人々がアイガ(Aiga)と呼ばれる親戚家族を何よりも大切にしていて、その一員として生きていることを常に自覚しているからでもある。
 サモアでは、まず結婚を決めるにあたって、家や村で最も権威のあるマタイ(Matai)と呼ばれる酋長の許しがなければいけない。マタイの許しが得られて初めて、二人の婚約が認められることになるのだ。
 婚約すると、結婚式までの約三週間「○村のA子さんと×村のB夫さんが、○日に晴れて結婚することになりました。異議申し立てのある人は、どうぞ名乗り出て下さい」といったことが書かれた広告を、村の集会場や教会など、人目のつく場所に貼って置かなくてはならない。この間、「この女性はもう俺と結婚しているぞ!」とか、「この男性との間に、子供がいるの!」などといった文句が何処からも聞こえてこなければ、晴れて結婚式が迎えられるというわけだ。夜這い≠フ風習の名残りを感じさせられるエピソードである。
 さて、昨年十二月二三日、クリスマスを前にサモア人青年シリパさん(25歳)が結婚式を挙げることになり、私も友人の一人として晴れの席に招待された。キリスト教を国教とするサモアでは、ほとんどの人々が教会で式を挙げる。昔ながらの伝統的なポリネシア様式での結婚式は、準備の費用や手間が非常にかかるため、現代では比較的簡便でシンプルな西欧様式が好まれているようだ。シリパさんの結婚式も、村の外れに建つ小さな教会で執り行なわれた。教会にはニュージーランドやオーストラリアなどの海外に住む親せきたち、村民などが一同に集まり、シリパさんの結婚式を暖かく見守っている。
 普段は冗談ばかり言う、気さくなサモアの青年は、この日ばかりは着慣れない黒のタキシードに身を包み、緊張した面もちだった。
 教会での一連の儀式を終えると、新郎・新婦を乗せた華やかな装飾の車の列が待ちかまえていた。近年のサモアでは、結婚の際、こうした派手な車で村中をパレードするのが、ちょっとしたファッションであるようだ。村を走り回る車の列は、大きなクラクションを鳴らしながら、ゆっくりとしたスピードで道を走り抜ける。「私たち、たった今結婚式を挙げて、こんなに幸せなのよ!」というのを皆に示そうと言わんばかりだ。
 サモア語には「ファアラヴェラヴェ(Fa’alavelave)」という言葉がある。いわゆる冠婚葬祭全般を指すものだが、サモア人が最もお金を使うのは、このファアラヴェラヴェでだ。「お金がない!ローンを組まなくては」と騒いでいるのを見たら、たいていはこの理由だと思ってもそう見当違いではないだろう。
 結婚式も例外ではない。パレードの後の披露宴では、大きなホールに大勢の人が集まっていた。列席者は、披露宴が始まる前に受付に二人への贈り物を渡すのが習わしである。披露宴が始まり、家族の紹介や友人たちのスピーチなどが続くと、途端に会場は一変してディスコ状態。もともと踊りや歌が大好きなサモア人だけに、生バンドによる演奏で一気に盛り上がりを見せる。
 結婚式で振る舞われる料理は家族親戚が総出で早朝から準備したもの。「よい結婚式だったと言われるためには、たくさんの料理を出さなくちゃ。料理が少ないと、皆が文句を言うのよ」と必死になって朝料理を作っていたのはシリパさんのお姉さん。この日は豚、鶏肉、魚、バナナやタロ芋、そして卵や野菜を使った炒め物……など、とても食べきれないほどの量の料理が、折詰で一人一人に配られた。
 結婚式・披露宴の中でサモアの伝統が最も感じられる光景と言えば、新郎新婦両家間の贈り物を渡す儀式である。最も典型的なのはイエ・トガ(ie[toga)と呼ばれるパンダナスの葉で編んだ、きめ細かなマット。これはサモア社会の中で古くから財産として大切に扱われてきたものである。この他に豚の丸焼き、魚やコンビーフの缶詰など。豚もサモア人にとっては貴重な財産であるため、冠婚葬祭以外でははなかなか口にすることができない。「ファアラヴェラヴェでお金がない!」とサモア人が嘆くのも、こうした光景を見ていると自ずと納得がいく。
 朝早くから始まった結婚式は夜更けまで、歌や踊りによる人々の祝福が続いていく。

 

 

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