アフガニスタン
タリバーン政権下の女性たち
女性の教育と就業の現状

写真・文 古居みずえ  アジアプレス・インターナショナル

 

招来は医者か先生になりたいという女の子。学校が再開するのはいつの日のことだろう。

 

隠れ学校で勉強する少女たち

 

女性で働けるのは、医者、看護婦など医療関係者だけだ

 

女性は顔を隠す「ブルカ」を着用しなければ外へ出られない

 

タリバーン政権下では女の子たちのコーランの学習は認められている

 

■阻まれる女性の教育
 ●隠れ学校━━奪われる教育の機会
 大通りから少し離れた小道を入ったところに「隠れ学校」と呼ばれる女子の学校はあった。民家の入口を入ったところから「りっぱな人は、人を助ける人です」と道徳を学ぶ女の子たちの声が聞こえる。隠れ学校で学ぶ子供たちはおよそ八歳から一五歳までだ。タリバーンは小学校から大学に至るまですべての学校を閉鎖し、いまやこの「隠れ学校」がかろうじて女子教育を施しているところといえる。
 イスラム原理主義勢力タリバーンは一九八九年の旧ソ連撤退後、各イスラム勢力の内戦で荒れ乱れた国土を建て直そうと立ち上がり、豊富な武器を手に瞬く間にアフガニスタン全土のおよそ九〇%以上を掌握した。タリバーンは住民から武器を取り上げ、厳しい法を制定し、取り締まったため、治安は回復し、住民から支持された。
 しかし女性に対する政策は厳しく、女性の教育は禁止され、幼い子供たちは「隠れ学校」でまだ学ぶ機会があるものの、中学、高校、大学にあたる女子学生たちは全く教育の機会を奪われている。このようなタリバーンの政策は女性の人権侵害だと、欧米諸国から厳しい非難の声があがっている。

 ●閉ざされる女性医師の道
 ジャララバードに住むファティマさん(21歳)は、タリバーンが来るまでは医学部二回生で、卒業まで二年が残っていた。現在は病院で看護助手として働いているが、ほとんどの時間を家で過ごす。このまま政権が続けばファティマさんが医者になれる可能性はない。
「大学が閉じられてから、勉強は一人で本を読んでいるだけです」
「教育は女性にとって必要だわ。男女の役割の違いはあっても、イスラムはすべての女性に教育が必要と説いています」と憤りを隠せない。
 ファティマさんとは対照的に、幸いにもタリバーンが来る一カ月前に大学を卒業し、医者になれた女性がいる。同じジャララバードで産婦人科医として働くナジュバさん(25歳)だ。
「私のいる病院では産婦人科医は二人だけ。早朝でも、深夜でも、いつでも働かなければなりません」とナジュバさんはすでにオーバーワークを訴えている。
 アフガニスタンはイスラム社会で、女性の患者を男性の医者が診ることはできない。大学が封鎖されていることで、新卒の女性の医者が育たないのは大きな問題だ。このままでいけば女性の医者不足となり、深刻な事態を引き起こす可能性がある。
 教育が自由に受けられないので、女性の国外脱出が目立っている。主にパキスタンへ出て大学などで学ぶケースが多いが、中には欧米へ出る女性たちもいる。もっとも、出ていく女性は経済的にゆとりのある女性たちだが、高等教育を受けた女性たちが残らなくなれば、将来的にアフガニスタンの国づくりに大きな影響を及ぼしていくことだろう。

■閉ざされる女性の就業
 ●時代逆行━━解雇される女性
 二〇〇〇年四月、私はイスラム原理主義組織タリバーン政権下の首都カブールに入った。廃墟だった町は一部を残し修復され、町は落ち着きを見せていた。以前は大きなビルの建物の窓にビニールが貼ってあったのが、本物のガラスになっていたり、少しずつ再建される様子が見える。しかしアフガンの女性にとってはタリバーンの政策は再建どころか、時代逆行の道をたどりつつある。
「一番悲しいことは夫を失ったことです。しかし今は子供を育てるために、どうしても仕事がいります。このままではどう子供を育てていいかわかりません」と話すのは、戦争未亡人のアイシャさんだ。タリバーンが来るまで、政府機関に働いていた。
 カブールではタリバーンの政権交代で、女性公務員二〇〇人の職が解かれた。アイシャさんもその一人だった。
 アイシャさんはムジャヒディン時代(対ソ連軍抵抗戦時代)に戦争で夫を失い、以来一人で娘を育ててきた。タリバーンにより彼女は職を解かれ、現在は収入のあてもなく途方に暮れている。
 女性の就業禁止で最も打撃を受けたのは、アイシャさんのような都市部の女性だ。アフガニスタンはナジブラ政権の親ソ連時代があり、その時期は女性にとっては大きく社会へ進出できたときだった。女性の参政権もあり、教育や政治の場に女性が登場した。都市部の女性たち、なかでも教育を受けた女性の多くは仕事を持っていた。しかしタリバーンが来て以来、その女性たちが職場を追われている。

 ●戦乱と経済制裁による苦境
 タリバーンの政府閣僚の一人は話す。
「医者や看護婦など医療部門の女性は働くことができます。現在は経済状況が悪く、男たちですら仕事がありません。経済的に余裕が出ればその機会もあるでしょう」
 タリバーン政権は九八年のケニア、タンザニアのアメリカ大使館爆破事件の首謀者と見られるオサマ・ビン・ラーデンをかくまっていることで、現在、国連から経済制裁を浴びている。そのため国際的に孤立し、経済援助もなかなか受けられない。そういう意味ではタリバーンの閣僚が言うように経済的に余裕がないのかもしれない。

 ●増加する戦争未亡人
 しかし二〇年にわたる戦争で、未亡人は数知れず増加している。夫の亡き後、細々と生計を立ててきた未亡人たちは、今や外で働けないことで窮地に追い込まれている。
 学校の教師をやっていた未亡人のラティハさん(28歳)には一人息子と三人の娘がいる。
「学校をやめさせられてから、家で裁縫をやってきました。しかしそれだけでは生活できません。家具も売ってきましたが、もう売るものもありません」と大きな瞳を潤ませる。
 カブールだけで戦争未亡人はおよそ三万人にのぼる。破壊されつくしたカブールの町に今日もブルカで身を包んだアフガンの未亡人たちが物乞いに立つ。

 

 

アフガニスタンその1
マスードの戦いへ


アフガニスタンその2
アフガニスタンの歴史・概略へ


アフガニスタンその4
1997年━━タリバーン支配下のカブール


古居みずえ取材 パレスチナへ

 

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