


竹内牧子
叙情的な水彩画のような画、少ないセリフとたっぷりの間、控えめに流れる音楽。強烈さ、派手さは一切ないが、「青〜chong〜」は、スクリーンからにじみ出るメッセージが観客の胸にすっと染み込んで余韻のように残る、そんな作品だ。昨年のぴあフィルムフェスティバル≠ナグランプリを獲得し、劇場公開の運びとなった本作の監督、李相日氏に話を聞いた。
●PFF受賞と劇場公開の喜び
――受賞の率直な思いを聞かせてください。
李相日監督■作品は日本映画学校の卒業製作として作ったものなんですが、PFF受賞は思いがけないご褒美でした。劇場公開できるならもっと一生懸命作っていればよかったです(笑)。
●作品について
――表現手法に非常に個性を感じました。
監督■こういった手法は僕の必殺技というわけでなく、他の人も既にやっているんですよ。他の撮り方がわからないというのもありましたが(笑)。ただ、観客にとってタルい(独り善がりでわかりにくい)ものは作りたくなかったんです。わかりいいとわかりにくいの境界線を追ったつもりです。
――少ないセリフとたっぷりの間。メッセージを言いすぎないで手前で止めておくのも監督のスタイルですか?
監督■スタイルというより僕の生理ですね。映画は想像させてナンボですよね。想像させるには間が必要になってくるんです。観客に自分の好き嫌いを押しつけたくないというのもあります。
――撮影前にシナリオをよく練ったそうですね。
監督■現場で混乱をきたしなくなかったんです。監督が防波堤で一人体育座りしても画になりませんから。現場に行ってから余程よいハプニングや閃きがあれば、取り入れることはありますけれど。
――作品のテーマは監督自身のテーマでもありますね。デビュー作にこのテーマを選んだのは?
監督■朝鮮学校時代は周囲の排他的な面が嫌でした。大学で出会った日本人の友人達はあまりに在日問題に対して無関心でした。両方に対してメッセージを送りたいと思っていたわけです。映画学校には興味のアンテナが高い人達が多く、僕の企画に賛同してくれたんです。
――思いはすべて込めることができましたか?
監督■思いというほどのものはありません。ただ、日本人の人が在日の人と初めて対面する時にこの作品を見ていたほうが、声を掛けやすいんじゃないかなあ、と。
――中から見た在日の世界。これまであまりなかった貴重な視点ですね。
監督■外から在日問題を描くとき、どんな立場で撮るのかが大きな問題になるんです。ただ擁護したらつまらない作品になるだろうし、批判するのは難しい。それが中の人の場合、自分の悪口も面白く、笑えちゃったりするんです。
――役者は日本人が演じていますね。
監督■在日の人を役者で使うと、自分の思いが必要以上にこもって、肩に力が入ってしまうかなと。作品自体のテーマが、世の中変わらないよというスタンスに立っているということもありますし。
――作品は五四分。二時間を越える長尺もザラにある中、短めですね。
監督■当初は一時間半を予定していたのですが、お金が無くて短くしました(笑)。結果的にはそれでよかったと思います。
●映画人として
――映画の製作現場を見たことがこの道に入るきっかけになったそうですね。どんな発見があったんでしょう?
監督■すべてが発見でしたね。ハリウッドの撮影風景の派手なイメージしかなかったので、以外とちんまりやっているな、これなら自分もこの中の一人になれるかなと。その頃がちょうど大学四年の就職活動の時期だったんですが、その波に乗り遅れたのと、会社員にはなりたくないという思いがあって。社会に放り出される段階になって、唯一やりたいと思えたのが映画製作だったんです。
――そして、日本映画学校入学ですね。
監督■すぐ現場に入って下積みをするという方法もありましたが、僕は忍耐強くないんで。どうせ下積みをするなら、まずは自分達の手で作ってみたいと、映画ごっこをするために高い授業料を払って映画学校に入りました。
――尊敬する監督、影響を受けた作品は?
監督■北野武監督、黒澤明監督、コーエン兄弟ですね。作品としては「ソナチネ」、「七人の侍」ですね。
●インタビューを終えて
PFFグランプリは七三〇本の応募作品から審査員の圧倒的な支持を得ての受賞、そして劇場公開の快挙。なのに監督は、「たいしたことないんですよ」と、何度も冗談を織り交ぜながら、するりと身を交わす。その軽妙な語り口は、しかし、他者への配慮や論理的思考がベースにあってのものだと感じた。それは作品のスタイルと重なるものでもあるのだろう。(4月9日東京・半蔵門にて)
■ストーリー
テソンは朝鮮人学校に通う高校三年生。彼の日常は、親友のヒョンギとつるんでチンピラとケンカしたり、電車の中で女の子のミニスカートを覗いたり、野球部のエースとして活躍したり、変わりばえなく過ぎていた。しかしそんな彼の生活にも少しずつ変化が。日本人の恋人と結婚したいと言う姉。美しい幼なじみのナミに日本人の恋人がいるという噂。そのためにいじめを受けるナミ。テソン自身も、野球部の高野連加盟が決定し親善試合をするが惨敗。変わり始めている周囲に戸惑い、また自分が何者かがわからなくなってしまったテソンだったのだが……
脚本・監督■李相日
出演■眞島秀和・山本隆司・有山尚宏・竹本志帆
99年54分
第22回ぴあフィルムフェスティバル/PFFアワード2000グランプリ他4タイトル受賞作品
4月21日(土)よりBOX東中野にてモーニング&レイトショー公開
李相日監督
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李相日(リ・サンイル)
李相日(リ・サンイル)監督は横浜生れの27歳。小・中・高と朝鮮学校に通う。神奈川大学在学中に映画の製作現場を見たことが、この道に入るきっかけに。観客に向けてのメッセージは、「ご苦労様です、かな。だって、東中野って遠いじゃないですか」。あくまでも自然体。現在、本作で獲得したスカラシップによる次回作(家族をテーマにしたロードムービー)の製作に取り組んでいる。
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