2001PART3

 

ただいま

17年かけた家族の再生物語
中国・イタリア合作映画

竹内牧子


 玄関のドアを開け、「ただいま」と声を掛ける瞬間。暖かい空間に飛び込んでいくひととき。あたりまえで平凡な、心安らぐ家族の生活のひとコマ。それはしかし、後に続く「おかえり」の言葉を前提としたものだ。
「ただいま」の一言が言えない主人公タウ・ラン。彼女は一七年前、義理の姉を発作的に殺しその罪で刑務所に服役している。
 家族は再婚家庭で、姉妹は連れ子同士だった。親たちはそれぞれの実子をかわいがり、家にはどこか険悪なムードが漂っていた。優等生で冷淡でキツネ顔の姉シャオチンと、凡庸だが明るく元気なタヌキ顔の妹タウ・ラン。対照的な二人。悲劇は姉の小さな意地悪によって起きた。タウ・ランは近づく出所を目前に控え、旧正月に一時帰宅を許されたものの、家族の出迎えはない。
 作品は、タウ・ランと、彼女を両親の元へ送り届けようとする刑務所の教育主任シャオジェを追ってゆく。かつての家を訪ねてみればそこは瓦礫の山となっている。両親の移転先を探そうとするが、慌しい旧正月のこと、聞き込みも移動も容易ではない。自身の帰省を遅らせてまでタウ・ランのために奮闘するシャオジェ。寒空の下の二人旅。シャオジェも自らの父との確執を打ち明けるなど、二人の間に信頼関係が生まれていく。
 ついに辿りついた両親の元。再会を果たすも家族の間には重苦しい空気が淀んでいるまま。どこか亡き姉シャオチンの面影があるシャオジェ。テーブルを囲む彼ら四人は、かつての家族のように見えて興味深かった。そんなシャオジェに助けられ、重い口を開く父。実子を亡くした父、一七年間一時も気の休まる時はなかった母、女性として一番輝かしい時を無にしたタウ・ラン。一七年かけてようやく癒された、それぞれの苦しみと悲しみ。一七年かけて再生された家族。一七年ぶりに言えた「ただいま」の一言。故郷を遠く離れて住む人ならば、このラストシーンに、だれもが田舎の両親を思い浮かべるのではないだろうか。筆者も日頃の親不孝を恥じ、この正月には早速雪国に住む両親の元へ駆けつけようと痛感したのでありました。お土産を両手に持って、「ただいま」を言うために。
■ストーリー
 一六才の時、ささいなことから義理の姉を発作的に殺し、刑務所に服役してしまった妹タウ・ラン。一七年後、翌年の出所を控え旧正月に一時帰宅を許された。けれども雑踏の中、彼女を迎えに来る家族はだれもいない。見かねた女性教育主任シャオジェは彼女を家まで送り届けることにするが、かつての家は取り壊され瓦礫の山と化していた。途方にくれるタウ・ランのために、シャオジェは両親の住むアパートを探し出そうとするのだが……

「ただいま」
99年/中国・イタリア合作/89分
監督・製作・編集■チャン・ユアン
出演■リウ・リン、リー・ビンビン、リー・イェッピン、リアン・ソン
99年ベネチア国際映画祭銀獅子賞(最優秀監督賞)受賞作

12月30日(土)よりテアトル池袋にてロードショー

 

 

イギリス映画

ぼくの国、パパの国
East is East

家族の暖かさが
   いとおしくなる映画

小野妙子

 舞台は一九七一年の英国マンチェスターにある小さな街ソルフォード。パキスタン人の父ジョージと、イギリス人の母エラ、そして六人の子供たちが暮らしている。ジョージは子供たちを立派なパキスタン人にするために、イスラム教やパキスタンの風習、挙句の果てにはパキスタン人の女性とのお見合いまで勝手に決めてしまう。頑固で、力ずくでも親の言うことに従わせようとする。しかし、子供たちはイギリスで生まれ、英語を話し、ディスコやソーセージも大好きなのである。だから、父親の押し付けることなど興味がなく、この一家から父と子の争いの火が消えることはない。
 しかし、彼らが争う様子から感じるのは、冷たさではなくむしろ暖かさである。それは、家族ひとりひとりの個性のプラスとマイナスが見事に調和されて描かれているからであろう。ジョージは頑固で恐い父親だが、エラにいきなり床屋の椅子をプレゼントするような茶目っ気もある。エラも夫に従順でおとなしい妻ではなくて、口げんかでは負けない気の強さを持っている。子供たちは、強制されるパキスタンの風習に逆らう。しかし、パキスタン人であることを否定しているわけではない。パキスタンの映画を観たり、音楽を聞いたり、躍ったりすることは何の抵抗もなく楽しんでいる。
 この映画は家族愛というテーマの背景に、実は様々な社会的な事柄が表現されている。インド・パキスタン戦争や第二次大戦後のイギリスへの大量移民の様子などである。この映画の脚本を書いた、アユ−ブ・カーン・ディンは実際にパキスタン人の父と英国人の母をもつ、十人兄弟の末っ子である。自らの家族をモデルにして描いている。彼だからこそ実際の社会問題を堅すぎず、柔らかすぎず、表現することに成功したのであろう。
 また、当時流行したイギリスとパキスタンの音楽が映画の中で流されているのも、とてもおもしろい。これらは、一歩間違えると西と東の対立になりかねないストーリーを、逆に融合させるためのクッションになっている。
 私もこの映画を見て、自分の家族を振り返らずにはいられなかった。実は私の父もジョージのように頑固で怒りっぽい性格で、そして母はエラのように芯が強い。映画を観ながら、父に怒鳴られたことや、喧嘩をしたことが次々と頭に浮かんできた。そう思うと、国が違っても同じような家族は存在するのだなと親近感をもって観ることができる。一人暮しの私にとっては、特に家族がいとおしくなる映画であった。

監督■ダミアン・オドネル
原作・脚色■アユ−ブ・カーン・ディン
製作■レズリー・アドウィン
出演■オーム・プリー「シティ・オブ・ジョイ」/リンダ・バセット「ビューティフル・ピープル」
1999年/イギリス映画/96分
2000年英国アカデミー賞(最優秀英国映画賞)/2000年カンヌ国際映画祭(第1回メディア賞)他多数受賞
1999年/イギリス映画/96分
2000年英国アカデミー賞(最優秀英国映画賞)/2000年カンヌ国際映画祭(第1回メディア賞)他多数受賞

「恵比寿ガーデンシネマ」にて一月中旬公開予定/「名古屋シネマプラザ4」・「北海道三越名画劇場」2月3日〜、「大阪梅田ガーデンシネマ」・「福岡KBCシネマ」2月24日〜、「京都朝日シネマ」3月17日〜各公開予定

 

 

アジア映画
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