 
弱くも美しい魂への温かさ
人間への肯定と信頼 石井里津子
ムロ・アミ
フィリピン/GMAフィルム/2000年/カラー/117分
監督■マリルー・ディアス=アバヤ
脚本■リッキー・リー、ジュン・ラナ
撮影■ロディ・ラカップ
音楽■ノノン・ブエンカミーノ
出演■セサール・モンタノ
ペン・メディナ
ジョン・ヒラリオほか
今年も東京・渋谷で十月二八日〜十一月五日、第一三回東京国際映画祭が開催され、熱い映画の風が吹き荒れた。その一環としてカネボウ国際女性映画週間が開かれ、女性監督をはじめ、八カ国の女性映画人の作品が上映された。そのなかの一本、フィリピンのマリルー・ディアス=アバヤ監督の「ムロ・アミ」を紹介したい。
舞台は、フィリピンの碧い海。手に手に石をもった子どもたちが、素潜りでサンゴをたたき砕きながら、身を潜めている魚を追い出していく。大人たちは網を見事に操り、その魚の群を網に追い込む。ムロ・アミ漁だ。
もともとは沖縄の方から伝わったものらしい。サンゴを破壊し、長時間幼い子どもに過酷な労働を強いるこの漁は不法であるにもかかわらず、いまもフィリピンで続けられているという。実際、メインキャスト以外は、本物の漁師たちが出演しているというだけにドキュメンタリー的雰囲気も感じさせる。
マリルー・ディアス=アバヤ監督は、ムロ・アミ漁を舞台に、力強い映像で、人間のエゴと自らの人間への信頼をドラマティックに描き出していた。ダイビングを趣味とし、水中撮影を得意とするというアバヤ監督だけに水中の映像が印象的である。
アバヤ監督が描き出す海の中は、どこか天空のようでもあった。水中で水をかき分け移動する洗練された肉体の動き、たゆたう網、天から射す白き光、息の泡が無数にこぼれ、音が閉ざされた世界……。そこは、人の心の奥のようでもあり、神の世界でもあるかのように感じられた。
ものがたりは決してハッピー・エンドではない。ムロ・アミ漁船アウロラ号の親方ブラドが、大勢の子どもたちを雇い航海に出るが、大漁を夢見て、子どもたちに日に幾度となく海に潜らせ続ける日々。あまりの強引さからか魚は捕れず、苛立ちはつのり、過酷な労働に逃げ出す子どもたちまで出、船は航路を迷い、裏切りが起こって……。
が、ラストは、アバヤ監督の人間観が全面に押し出されている。そこには人間への絶対的な肯定、信頼がある。悲しい結末でありながら、監督が、人間を信頼しているからこそ、明るい夜明けが観客の心のなかにも訪れる。
ものがたりもさることながら、人間の弱くも美しい魂を、静かに輝く水中の世界に重ね合わせた映像や労働に駆り出される大勢の子どもたちへの共感が込められた映像に、限りない温かさを感じずにはいられなかった。
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