亜洲奈みづほのアジア映画紹介



『酔拳 レジェンド・オブ・カンフー』
(2010年/中国映画/116分/2011年6月25日より「シネマート六本木」にてロードショー)


(C) 2010, UNIVERSAL STUDIOS, GRAND PLENTIFULL HOLDINGS GROUP LIMITED. ALL RIGHTS RESERVED.

 闘いの果てに得た、究極の武術――そう銘うたれた本作は、中華圏の人気スターによる夢のようなコラボレーション、カンフー・アクションの決定版だ。

 時は1861年、清朝の戦乱期。親王を救出したスー・サン(チウ・マンチュク/趙文卓)は、その功績を義兄ユアン(アンディ・ウォン/安志杰)に譲り、妻のシャオイン(ジョウ・シュン/周迅)と息子と平穏な日々を送っていた。だが義兄は義父を殺した彼の父親を殺害し、息子を奪う。義兄の一撃に敗れた彼は、瀕死の重傷を負うももの、通りがかった医師ユ(ミシェル・ヨー/楊紫瓊)に助けられる。何も出来ない苦しみで酒に溺れた彼だったが、妻が医師に教えられて作った酒の力に目が覚め、リハビリに励むようになる。そんななか、彼は武神(ジェイ・チョウ/周杰倫)に出会い、戦いながら新しい武術の技を習得してゆく。

 空(くう)を斬る拳の音、かちあう剣の響き。そして砕ける文物、崩れ落ちる建物。ロケーションもまた、屋内から仙人の山、格闘場へと次々に移され、見る者を飽きさせない。なんでも10分に1度は壮絶なカンフー・アクションが炸裂しているという。

 主演男優は、中国武術大会剣術部門の優勝者、つまり真の武術格闘家だ。それだけに、スタントマンやCGだけに頼らない、実力の武術が、いかんなく披露されている。監督のユエン・ウーピン(袁和平)は、俳優たちに本気の殴りあいの演技を求めた。主演男優いわく、
「ユエン監督は、大変に厳しい人です。この役は武術経験者でないと、演じることはできません。」

 ところで本作は、誰が悪で敵を倒すというような、一辺倒な構図では、おさまりきれない。武術の鍛錬や競技として、つまり純粋に武術のための武術が描かれているのだ。これは余談だが、筆者はかつて、柔拳連盟という組織に参加したことがあるのだか、そのさいに感じたのは、「武術とは、最終的に、どこまで強くなれるか、自己に挑めるかの闘い」であるように思われた。本作にも随所に、「敵は2つ、相手と自分自身だ」というような表現が現れている。恨みだの殺しだのだけでは済まされない、己との戦いが、本作でもテーマとして貫かれているようだ。

 主人公にとって、最後の戦いは、黒龍江省の格闘場にて、欧米人(ロシア人?)レスラーを相手にした決闘である。死闘に死闘を重ねた末、己のトラウマをも克服して、勝ちぬいた主人公。

「今日の勝利は、この中国人です!」
そのアナウンスに思わず筆者が感涙が、にじんだのは、列強に踏みにじられていた中国人が、欧米人にうち勝ったように感じられたからだろうか…。

(筆者よりひとこと:「剣術、拳法、これぞ武術の殿堂。武を極めたい者たちよ、ここに集え!」)(2011.6)

公式ホームページ:http://www.suikein-movie.jp

バックナンバー
2006年9月〜2009年3月までの紹
2009年4月〜12月までの紹介
2010年1月〜2011年3月
亜洲奈みづほ(あすなみづほ)
作家。97年、東京大学経済学部卒。在学中の95年に朝日新聞・東亜日報主催『日韓交流』論文で最優秀賞を受賞。卒業後の99年、上海の復旦大学に短期語学留学。2000年に台湾の文化大学に短期語学留学。代表作に『「アジアン」の世紀〜新世代の創る越境文化』、『台湾事始め〜ゆとりのくにのキーワード』、『中国東北事始め〜ゆたかな大地のキーワード』など、著作は国内外で20冊以上に及ぶ。アジア系ウェブサイト「月刊モダネシア」を運営。