その5
アジアの文字

 今や国際電話の多国語併記のチラシは当たり前、エスニックレストランでの現地語文字で書かれたメニュー、そしてあなたの町でも多国語で書かれたゴミの出し方掲示板も全然珍しいものではなくなってきています。特殊言語文字と言われたものが、かなり私たちの日常にも入り込んでいます。
 アジアは独創的で民族的な文字に溢れています。パソコンにおけるそのような特殊文字の扱いについても昨今はインターネットの普及と浸透により、個人レベルでもかなり身近に扱えるようになってきています。

 私の勤務する(株)ロガータはアラビア・ハングル・中国・タイ・ロシア語など特殊言語をMacでDTP制作している会社です。「ロガータ」という聞き慣れない社名はアラビア語の「言語」に由来したものです。半年間にわたるインド・ネパール・東南アジア旅行後にロガータに入社以来、私も本来アラビア語が専門だったのにもかかわらず、携わった言語は、グルジア・ギリシア・トルコ・ロシア・トルクメン・クルド・ペルシア・ウルドゥー・スィンディー・ヒンディー・マラティー・ネパール・シンハラ・タイ・ラオス・カンボジア・ベトナム・中国・韓国・チベット・モンゴル・ベンガル・ミャンマー……と、とりとめのないことになっています。もちろんこれらすべての言語の素養があるわけではありませんので、ネイティブとの連携は欠かせません。

 実際パソコンで特殊言語文字を扱うには「フォント」、場合によっては「専用の入力ソフト」までが必要となるわけですが、数年前までは特殊言語フォントを扱う窓口も国内ではごくわずかで、またそれを扱えるOSやソフトも限られていたり、扱うノウハウも時にはやさしいものではありませんでした。パソコン通信が始まると、NIFTYの言語フォーラムなどではその頃より特殊言語のノウハウやフォントが個人・研究者レベルで、かなり一般的でない文字についても発表・公開がされてきました(商業目的としない使用については、ミャンマー・カンボジア語など無料のフォントもずいぶん以前からダウンロードできるようになっていたものです)。
 そして、インターネットの浸透で諸外国が一気に身近になったことにより、OS開発側も特殊言語、特にアジア言語は不可欠の考えになってきたようです。Macについていえば、今まで個別に購入してきたランゲージキットがOSに同梱されるようになって、中国・ハングル以下アラビア・ヒンディー語までも誰の機械でも扱えるようになっています。Windowsの方も2000では多国語対応になっているようですし、マイクロソフトでもインターネット用のアジア用フォントなどは無料アップデートになっています。また、インターネットで検索すればひっかからない言語・文字はないくらい、パソコン上の文字世界もぐっと身近になっています。(Mac・Windowsでの多言語処理については、大阪外大のホームぺージに詳細もありますのでどうぞ参考にしてください。大阪外大多言語同時処理室http\\\mlang1Yosaka[gaidaiYacYjp\mtagengo\)

 海外に気安く行けるようになった今の時代、旅先の「電脳街」を覗いてみると意外な掘り出し物もみつかるかもしれません。香港・シンガポールなどでは特殊言語の学習ソフト(CD)が安価に手に入ります。昨年、中東ドバイへ行った際には、「中東最大のパソコンショー」なるものをやっていたので立ち寄ってみましたが、「コーラン」がまるまるCD、しかも画面上でカラオケ状態で朗誦が確認できるもの!がけっこう目につきました。アラビア文字はもともと装飾的な文字なので、見ているだけでも楽しめそうです。

 しかし、実際のところいろいろな文字が手軽に扱えるようになっても、それをDTPの世界で扱うのにはまだまだ問題があります。ひとつはインターネットを目的とした文字は、DTPで扱うレイアウトソフトには未対応が多いこと。また、需要が低いものほど開発サイド独自の入力形式や文字配列に差があり、データーの互換性がないものなど。また、文字のデザインについても語学書の著者の先生方からは、既製品の文字では「ハセ・ソネセ・ソの具合が今ひとつ」「点セ・ソの位置がおかしい」などとご指摘・ご注文を受けることもしばしば。そんな場合はグラフィックソフトや文字作成ソフトで文字そのものを加工してしまいます。

 こんなわけで、文字についての苦労は今しばらく絶えませんが、アジアの珍しい文字の引き合いがあると簡単にやり過ごすことができなくなってしまっているこの頃。「アジアウェーブ」購読のきっかけも、実は「アジアの文字」のつながりからなのです。ミャンマー文字の入力で苦しんでいた当時、ミャンマー料理レストランへ行って「校セ・ソ正セ・ソ者セ・ソ」をスカウトしようと安直に考えて行った店先で知ったのが「アジアウェーブ」でした。文字を知ると、世界が広がる……まさにその通りです。
(「ロガータ」勤務)
パソコンでアジアの文字を
身近になってきたエスニックな文字たち
文字でつながる・広がる世界
滝澤慶子
        これは新種の検眼記号?(ミャンマー文字)

        カエル文字?!(シンハラ文字)
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