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いろいろ
アジアの文字

●東アジアの文字
 中国で使われている文字は、漢字だけではありません。共産中国の成立以降、多くの民族が自分たちの言語をラテン文字で表記するようになりました。また次にあげる民族は、古くから独自の文字を持っています。
 朝鮮族/満族/タタール族/藏(ツァ)族(ン)/門(メン)巴(パ)族/蒙古族/回族/ハザク族/ウィグル族/錫(シ)伯(ポ)族/ウズベク族/オロス族(ロシア族)/京族(ベトナム族)/チンポー族/彝(イ)族/普(プ)米(ミ)族/ワ族/タイ族
 満族の文字は、満州文字です。モンゴル文字を基に作られ、清帝国の公用文字となっていました。
 南中国の彝(イ)族には、ロロ文字という不思議な文字が伝わっています。
 また雲南省の納(ナ)西(シ)族は、東(トン)巴(パ)文字と呼ばれる絵文字を持っています。現在でも生きている表意文字は、世界中で漢字と東巴文字だけです。そのほかの文字は、すべて表音文字です。
 ただし東巴文字は、文字というよりも、絵による「覚え書き」に近いようです。
 中国の雲南省には、各種のタイ文字があります。中でも、西(シー)双(シュ)版(アン)納(パン)タ(ナー)イ文字と、徳(トー)宏(ホン)タイ文字は、使用者も多く、日刊新聞が発行されています。

 台湾の小学生は、注(チュ)音(ーイ)字(ン・)母(ツー)と(ムー)呼ばれる発音記号を使って漢字の読みを習います。でも大人になったらみんな忘れてしまうそうです。

 モンゴル語の表記には、近年はずっとロシア文字が使われてきました。が、自己の文化を再認識しようという運動に伴って、モンゴル文字にも復活のきざしが見えてきました。

 モンゴル文字は、古代アラム文字から発展したものです。一つの文字が、語頭形、語中形、語尾形と三つの形をとります。また同じ形の文字でも、語頭、語中、語尾で、違う読み方をします。
 行は、左の行から、右の行へと読んでいきます。
 北朝鮮と韓国の新聞は、どちらもハングルで書かれています。北が横書きでハングルのみなのに対し、南は縦書きで漢字併用です。

●東南アジアの文字
 五〜一五世紀のインドネシアでは、カヴィー語の碑文を、南インド系のパッラヴァ・グランタ文字やカヴィー文字で刻んでいました。カヴィー語というのは、ジャワ語にサンスクリット語が混入したものです。
 やがてカヴィー文字から、スマトラ島のバタック文字やミナンカバウ文字、スラウェシ島のブギス文字やマカッサル文字が生み出されました。これらは、インド系文字の最東端にあたります。ここまで来ると、ちょっと見にはインド系に見えません。
 ジャワ島ではカヴィー文字からジャワ文字が考案され、全島で使われるようになりました。さらにそこからバリ文字も生まれました。
 しかし一三世紀になってイスラム教が入ってくると、人々はジャワ語やマレー語をアラビア文字で表記するようになります。
 さらに一七世紀以降にはヨーロッパによる植民地政策により、ラテン文字での表記が一般的となり、地元の文字はすっかり廃(すた)れてしまいました。
 今でもインドネシアの小学校では、地元の文字を教えています。でも実用性がないので、大人になる前にすっかり忘れてしまうようです。今、これらの文字が使われているのは、王宮の装飾や、おまじないに限られています。

 一六世紀にマゼランの一行がフィリピンにやって来たとき、すでに人々はインド系の文字を使っていました。ルソン島のタガログ文字や、ミンドロ島のブヒル文字、セブ島のビサヤ文字がそれです。
 これらはマジャパイト海洋王国の文化が伝わったものでしたが、スペインの統治が始まるとすぐに忘れ去られてしまいました。
 面白いのはミンドロ島のハヌノオ族の文字で、下から上に読むようになっています。

 ベトナムでは、かつて漢字を基にした「字(チュ)喃(ノム)」という文字が考案されましたが、あまりに繁雑すぎて普及しませんでした。
 現在は、ラテン文字に、三つの付加記号と、五つの声調記号を加えて表記しています。

 カンボジアのクメール語には、声調がありません。が、そのぶん母音が複雑で、クメール文字には母音字が二〇もあります。
 現代のクメール文字には、アクサル・チュリエン(草書体)と、アクサル・ムル(楷書体)の二種類があります。草書体は日常の筆記に用いられ、楷書体は印刷物やお経の筆写に用いられています。

 タイ国で使われているタイ文字は、クメール文字をもとに考案されました。どちらも南インド系の文字で、ヒンドゥー教や仏教とともに、インドの語(ご)彙(い)もたくさん輸入しました。
 タイ文字は、椰子の葉に鉄筆でお経を書くことによって発達しました。このお経を貝(ばい)葉(よう)経(きょう)と呼びます。
 蛇腹式のノートもあって、こちらはサムット・コーイと呼ばれます。タイの古文書はこのいずれかで残されています。
 タイ国には、いくつか古い字体の文献も残っていますが、現在の標準タイ文字につながる最初のものと言えば、やはり一二八三年に建てられたラームカムヘーン大王の碑文です。
 この文字を、ラーイ・スー・タイと呼びます。これは、母音をすべて字母と同列に書くものでした。
 しかしすぐに周辺民族の影響を受けて、母音を上下左右に書くようになり、かくして今では、タイ文字は行間に余白をたくさん必要とする不便な書体になってしまいました。

 ビルマの主要言語のうち、ビルマ語、モン語、カレン語、シャン語は、ビルマ文字を使って表記しています。ただしカチン語はキリスト教の影響でラテン文字を使っているようです。

 マレーシア語の新聞は、ほんの一〇年前まで、アラビア文字とラテン文字の両方で発行されていました。現在はラテン文字のみです。

●インドの文字
 インドでは、デーヴァナガリー文字で書かれたヒンディー語と、英語が、公用語となっています。
 また、一七ほどの地方公用語も認定されています。
 これらのうち、サンスクリット語を除いた一八種類の言葉、および中国語で、八〇〇種以上あると言われる日刊新聞のほとんどが印刷されています。

 南インド系文字は、いずれもドラヴィダ語族のもので、ブラーフミー文字の南方系から発展したものです。
 ただしシンハラ文字だけは例外で、アーリア系の言語をドラヴィダ系の文字で表しています。
 南インド系の古い文字には、箱形文字、カダンバ文字、ヴェンギ文字、チャールキア文字、そしてパーリ語仏典に使われた各種の文字があります。

 北インド系文字の代表は、デーヴァナガリー文字です。中世のインドで、サンスクリット語を表記するために作られました。それでサンスクリット語は、デーヴァナガリー文字を使うと決まっているのです。
 一方、パーリ語の表記には、いろいろな文字が使われていました。中世以降には、タイ文字やビルマ文字、シンハラ文字でも表記されています。
 ちょっと歴史の針を戻してみましょう。紀元前の北インドで使われていたのは、ブラーフミー文字といって、インド文字の基礎になったものです。
 それから四〜五世紀になると、チャンドラグプタ一世および二世の支配する、グプタ王朝が栄えます。
 この時代、サンスクリット文学や仏教美術が発達し、アジャンターやエローラーの彫刻群が作られました。この時期の文字をグプタ文字と言い、ここから北インド系文字が発達して行きます。
 かたや南インドには、パッラヴァ朝が栄えます。この時代の文字をパッラヴァ・グランタ文字と総称していますが、この文字は南インド系文字の基礎となり、遠く海を渡ってインドネシアにまで伝わって行きました。
 グプタ文字から、六世紀になるとシッダマートリカ文字が生れます。
 これは仏教とともに日本に伝わり、神秘の文字として珍重されます。そして梵(ぼん)字(じ)または悉(しっ)曇(たん)文字と呼ばれて、種(しゅ)子(うじ)(仏を一文字で象徴する文字/種字とも書く)として装飾的に用いられたり、卒(そ)塔(と)婆(ば)(語源は仏塔)や、五(ごり)輪(んの)塔(とう)に刻まれたりしました。
 また、シッダマートリカ文字の音韻表から、日本語の五十音表が作られました。
 さて七世紀になると、ナーガリー文字(都会の文字という意味)が、シッダマートリカ体を基にして生み出されます。これは上部に横線を引いて文字列をそろえるものでした。
 そして一〇世紀ごろには、サンスクリット語の文献がナーガリー文字で盛んに著されるようになり、北インド全体に広まります。
 そこからさらに、デーヴァ(神)ナガリー文字が考案され、一八世紀以降、北インドの文字の主流を占めるようになります。

●その他の南アジアの文字
 ティベット文字は、インドのデーヴァナガリー文字から作られたものです。仏教経典を書き表すために用いられましたので、中世のつづりがそのまま残っており、現在では発音とだいぶズレがおきています。
 ブータンのゾンカ語は、ティベット語の方言です。文字もティベット文字を用います。
 スリランカのシンハラ語は、アーリア系の言語ですが、文字は南(ドラ)イ(ヴィ)ン(ダ)ド系のシンハラ文字で表記されています。
 モルディブのディベヒ語は、シンハラ語に近い言語です。しかしその文字は、南インド系の文字にアラビア文字が混入したものです。アラビア文字の数字が、そのまま文字として使われています。
 パキスタンの主要言語であるウルドゥー語は、ヒンディー語と同じ言葉です。語彙をペルシャ系にして、文字をアラビア文字のナスターリク書体にすると、ウルドゥー語になります。
 つい最近までウルドゥー語の新聞は、毎日、書家が原稿をもとに手書きして、それを写真製版していました。そのためにすごく時間がかかっていましたが、コンピューターの登場によって、ようやく活字が使えるようになりました。
 パキスタンには、ほかにシンディー語などもあり、やはりアラビア文字のナスタリーク体が用いられています。

●旧ソビエト連邦内の、アジア圏の文字
 カザフ語/キルギス語/ウズベク語/トルクメン語、アゼルバイジャン語は、いずれもアルタイ語族トルコ系の言葉です。
 文字は、アラビア文字を使っていましたが、二十世紀になってロシア文字に切り替えました。
 ロシア文字は、キリル文字の一種です。キリル文字とは、キリルという人が作った文字と、そこから発展した各種の文字の総称です。
 キリル文字は、ギリシア正教とともに東ヨーロッパに定着しました。
 古代ローマ帝国の文字であったラテン文字が、ローマ正教に用いられてヨーロッパ全土に広まったのと対照的です。
 タジク語はペルシャ系の言葉です。やはりロシア文字を使っています。
 ブリヤート語とカルムイク語は、どちらもモンゴル系の言葉です。かつてはモンゴル文字を使っていましたが、二〇世紀になってロシア文字に変えました。
 アルメニア語は、印欧語族アルメニア系の言語で、独特のアルメニア文字を持っています。
 グルジア語は、コーカサス語族カルトベリ系の言葉です。独自のグルジア文字を用います。

●西アジアの文字
 アフガニスタンでは、パシュトゥーン語(アフガン語)と、ダリー語(ペルシャ語の方言)が話されています。アラビア文字のナスタリーク体で表記されます。
 イランはアーリア人の造った国で、ペルシャ語が話されています。文字はアラビア文字のナスタリーク体です。
 トルコ語はかつてはアラビア文字で表記していましたが、現在ではラテン文字が主流です。
 キプロスは小さな島国ですが、トルコ系の住民とギリシャ系の住民とがいがみ合い、二つの政府が並立しています。ギリシャ文字は、古代ギリシャの時代からあまり変化していない、古い形の文字です。
 イスラエルでは、セムハム語族のヘブライ語や、アラビア語が話されています。ヘブライ文字はアラム文字からできたもので、紀元前二世紀からほとんど形を変えていません。

●アラビア語の国々
 以下の国々では、セムハム語族のアラビア語が話され、アラビア文字が用いられています。
 ヨルダン/シリア/レバノン/イラク/イエメン/オマーン/クウェート/カタール/バーレーン/サウジアラビア/アラブ首長国連邦
 アラビア文字にはいくつかの書体があります。
 クーフィー体は角張った書体です。すでに廃れた書体ですが、マスジット(イスラム寺院)の壁などに刻まれ、装飾用として用いられています。
 ナスヒー体は丸みを帯びた書体で、活字として多くの国で用いられています。
 ナスヒー体からは、タリーク体が生れ、さらにこの二つを折衷させたナスタリーク体が生れました。
 ナスタリーク体は、パキスタン、アフガニスタン、イランで盛んに用いられています。
 このナスタリーク体を手書きで草書にしたものを、シェキャステ体と呼びます。

 ところで私は、世界では、次のような文字が好きです。皆さんは、お気に入りの文字がありますか?古代エジプトのヒエログリフ(最高に美しい文字)アッシリア楔(くさ)形(びが)文(た)字(幾何学模様のよう)
アムハラ文字(踊るエチオピア人)

 
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はとうゆきお