その1からの続き

「パゴダ建立や僧侶への莫大なお布施はもういいの。病院や学校、図書館を作ってほしい」信仰篤い仏教徒のエーエーさんはよくこう言う。国のことを真剣に考えるからこそ、こんな言葉が出るのだ。彼女は日本に六年間住んでいたことがあり、一九九六年、母国がどう変化したか期待に胸膨らませ帰国した。はっきり言って失望したそうだ。表面的にはビルが建ち並び、車も増え、近代化された様に映るが、中身は以前より悪くなっていた。賄賂がはびこり言論の自由などなく、すべての雑誌は検閲を受けている。政府は学生たちのデモを恐れて大学を四年間も封鎖したり……「教育がいかに大事か政府は解ってない」彼女はそういって嘆くのだ。
二〇〇〇年七月より大学は開いたが現在、高校最終学年の人達がいつ大学に通えるかは未定。なにせ上が詰まっている。だから現在塾が大流行している。英語塾やコンピューター学校が大人気。手に職をつけ、いつか海外で生活できたらと考えてのことのようだ。

信じられない話だが公務員の給料は六〇〇〇チャット(約一二〇〇円)ぐらいなのだ。五人家族で約三万チャット(約六〇〇〇円)は必要だと言う。どうやりくりしているのかエーエーさんに聞くと、家族や親戚の中に海外で働く者や長期の船乗りがいることが多いようだ。そこでドルを得るのだ。誰もミャンマーチャットなんて信用してない。彼女も日本から仕送りをしていたと言う。そして、仏教の教えである施しと助け合いの精神で食べるのには困らないそうだ。「貧しくとも生きていけることがビルマ唯一の自慢かしら」と、エーエーさんは笑った。
今年の四月ビルマに行った時のことだ、一ドル五〇〇チャットが五月には一時的だが八〇〇チャットを越えた。おのずと物価は上がり庶民の生活はきつくなる。私はドルを持つ身分だったが、彼らの暮らしを思うと気の毒でならなかった。しかし彼らは「無常」だよ、常に変化するんだと言ってのける強さがあり、いたって前向き。これも仏教の教えの一つだ。

気持ちよく枝を伸ばす樹木の陰では人々がのんびり涼んでいる。喫茶店では、お風呂場で使うような小さな椅子にちょこんと座り、大人たちが何時間でも紅茶を飲みながらおしゃべりをしている。走っている人など見かけたことがない。パゴダでは仕事前の公務員が制服のままお祈りをしている。子供は子供らしい笑顔を見せてくれる。
日本で閉塞感を抱いて生きているなら、一度ビルマに行ってもらいたい。ビルマでは時間はゆったりと流れていて、何かにあせって生きている自分がバカらしく思えるだろう。そしてきっとたくさんのことを学ぶだろう。
日本の首相が変わったと教えてくれたのはマンダレーの食堂のオヤジだった。「日本もこれで変わりそうだね」なんて言われたので「あなたの国も変われればいいのにね」と答えようとしたがやめておいた。いつか変わるだろうから。無常、それが自然の法だと教えてくれたのも彼らだったから。