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タイ・ビルマ国境の山岳民族の村には、まだ旧日本軍兵士の遺品が残っている。日本刀や日本軍の軍服、飯ごうなどを見せてくれたモン族の村人
遺骨拾集を続けてきた北タイの藤田松吉さん
藤田松吉さんが自分の家の庭に建てた、日本へ帰れない遺骨のための慰霊碑
イギリス兵・オーストラリア兵の捕虜生活を伝える当時の写真
本
「瀬戸正夫の人生」
瀬戸正夫さんの本が出版されました。
太平洋戦争を越えてタイと日本の間で生きてきた真摯な人生の記録をぜひお読み下さい。
「瀬戸正夫の人生」上・下巻バンコク・東京堂出版(500部限定出版)
上巻400バーツ下巻500バーツ

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太平洋戦争中、連合軍捕虜の酷使によって建設されたタイ西部ビルマ国境地域の、泰緬鉄道のクワイ川鉄橋
太平洋戦争開戦60周年
瀬戸正夫さんに聞く
日本とタイのはざまで
インタビュアー
五十嵐勉(本誌編集長)
ペーパー主義と組織ピラミッドの弊害




●歴史を受け止める重要性
五十嵐●前号では、今年開戦六〇周年ということで、当時のマレー半島の事情やタイのまだ知られていない事実、また戦後の書類主義による無責任性などを、その歴史に立ち会われ、自ら被害者としても苦しまれたご経験をおうかがいしたわけですが、いまそうした日本の戦争を振り返るとき、現在の日本をいかがお感じになりますか。
瀬戸■太平洋戦争が始まって、今年六〇年になるわけですよね。だけど日本はいまだに外国、特にアジア諸国からいろいろ言われて、騒がれているわけですよ。しかも従軍慰安婦の問題や台湾の高砂族やインドネシアの問題、教科書問題など、いろいろなところで非難されて、裁判沙汰も続いている。
 なぜかというとそれは、日本で戦争があったこと自体を現在の若者が忘れてきている。日本人自身知らない人が多くなってきていることと関係があると思うんです。知っているのは、日本が戦争をしたことや原爆でやられたことなどです。それさえ無関心な人が多い。しかしアジアでは、三〇〇〇万人の人たちが戦争で命を落としているわけですよね。三〇〇〇万人としたら遺族の苦しみも入れるともっとになります。その数倍の人たちが日本の戦争によって苦しみを得ているわけですよね。辛酸をなめている。中国にしても、フィリピンにしても、シンガポールにしても、ビルマやインドネシアにしても、また特に韓国にしても、日本は植民地として支配してたくさんの人を殺してひどいことをしてきたわけですよ。だけど、日本の現在のほとんどの人がそのことを知らされていない。日本がアジアで何をしてきたか、知らされていないんです。だからそこに問題があるわけですよ。もっと教科書やマスコミなどで知らせなければいけない。知らないからああいう非難が来るし、来たとき、きちんと対処ができない。とんちんかんな応答や、対処をしてしまうわけですよ。もし逆に日本人がたくさん殺されていたら、その痛みは忘れることができないでしょう。そこを逆撫でされたら、だれだって怒りますよ。
 だからもっと自分たちが歴史のなかで何をしてきたか、しっかり振り返って学ばなければいけないと思います。歴史を学び、それを引き受ける姿勢が今の日本には根本的に欠落している。だから真の意味で国際化、グローバル化できないんですよ。経済力、お金だけが拠所になってしまう。その経済力も陰りが出てきて、すっかり自信を失いかけている。情けないものですね。そのうち多くのアジア諸国が経済発展を遂げ、日本を追い抜いていきますよ。そのとき、日本には何が残るんですか。
 それともう一つは、ドイツの場合、ユダヤ人をずいぶん殺していますよね。でも日本のように今もあちこちから問題がずるずると噴出してこない。それは一つには教科書ですよ。ドイツの場合にはちゃんと教科書に記して教えているわけです。でも日本の場合には過去の悪い部分はみな隠してしまっている。そこを避けて、「臭いものには蓋セふたソをする」方式でみな隠して触れないようにしてしまっている。日本の場合は「戦争をした」っていうことは教えている、そのことはみんな知っている。でもその戦争で何をしたかという詳しいデータは全然与えない。具体的なことはみな知らない。
 例えば、慰安婦の問題にしたってそうですよ。いまだに隠そう隠そうとしている。当事者もやっと名乗り出している。でももう遅い。死んでいく頃になっちゃってる。僕も経験した人に二、三人会って話を聞きましたけど、日本兵を相手に一日に三〇人も、四〇人も、五〇人もやったっていう。これはたいへんなことですよ。それでしかもあの人たちは何ももらってないんですよね。何も補償されていない。ほとんど泣き寝入りですよ。
 韓国の労働者たちだってそう。家畜のように働かされて、ひどい条件の下で、食糧もろくに与えない、薬も与えないで、使い潰していく。
 泰セたいソ緬セめんソ鉄道(戦争中日本がビルマへの軍需物資などの補給のため敷設したタイ・ビルマ鉄道/シンガポール攻略戦などで捕虜にしたイギリス・オーストラリア兵、またインドネシア人などを酷使して多数の死者が出た)だってそうですよ。日本の人たち、恵泉大学の人たちが来て教えてあげたりしてますけどね、みな知らない。「こんなことがあったんですか」ってみな驚く。捕虜が一〇万人以上動員されて七万人近く、大半が死んでいる。みんな初めて聞いてびっくりする。それでいいのか、と言いたいですよね。現在日本はまた教科書をもっと悪くいじり始めています。文部科学省が。もっとわからないように、日本の犯してきたことを隠そうとしています。僕ははっきりそう思います。それでいいのか、と。それはまちがってます。

●使い捨ての思想
●歴史を受け止めないことと無責任ということはどこかでつながっていますよね。
■日本という国は、やっぱり人を利用する国だと思いますね。使いものにならなくなったら、もういらないと思ったらいつでも勝手に捨ててしまう。現に日本から召集された人たちがね、こちらで戦争が終わるとき逃げてタイ人たちと結婚している元日本兵だった人たちが、「私は日本人で、日本軍の兵士だったんです」と言っても認めなかったんです。いまでこそ認めるようになってきましたけど、それまで認めなかったんですよ。それまでは、日本に全然戻っていないということで、「戦死した」などいろんな理由で戸籍から排除されちゃってるわけですよ。人間が赤紙一枚で召集されて、戦場へ駆り出されてみんな戦死した、また負傷した。ほんとにみんな困った場合、だれが助けたんですか。タイの場合みんなタイ人が助けてくれたんですよ。ビルマから逃げてきた日本軍兵士を、タイ人がかくまったりして助けたんですよ。
 もちろんビルマ戦線なんかひどかったですし、タイ・ビルマ国境にもずいぶんたくさん日本軍兵士の遺体や遺骨があったわけですよ。いまも相当な数が放置されていますけどね。その遺体や遺骨の処理をしたのか。一〇〇%してますかと言ったらほとんどしていないんですよ。それが日本という国なんですよ。兵士として召集しておいて、戦場へ行けと言っておいて、あとの責任は全然取らない。ある程度はしたというけれど、あとは皆戦友たちがカンパしてそれで有志が遺骨拾集をやったわけですよ。戦友会がね。それも一部ですよ。藤田松吉さんとか、こちらにいる人たちがね。厚生労働省は何をやってるんですかと言いたい。中国やビルマはもっとすごいですよ。ちゃんとやっているのか、ということですよ。日本は、尊い命を、使い捨てる。大事にしてやっていない。冷たく見捨てるんですよ。日本という国は。みんな犬死にですよ、僕に言わせれば。大事にしてやっていない。
 沖縄を見てごらんなさい。六〇年近く経ってるんですよ。どうしてまだ洞窟の中にそのままにしておくんですか。沖縄人だからなんてそんなことないでしょ。内地の日本人だってみんないっしょに戦ったんだから。あそこでは沖縄の県民がずいぶん死んでる。子供にしても女にしても。それをなんできちんとしないのか。仏が浮かばれるか、絶対浮かばれないですよ。僕は何回か日本へ行ってるけども、年を取った連中から、いまだに、私の息子はまだどっかに生きているんじゃないかっていう声が聞こえてくるんですよ。それは日本の政府がきちんとやっていない証拠ですよ。政府はもう打ち切ってしまった。ちゃんとして打ち切るんならいいですよ。曖昧にして打ち切っちゃってる。金はいっぱいあってあちこちに援助している。無償援助している。その援助の一部でもいいから、戦争のためにまだ苦しんでいる人たちに回したらどうですか。どうして回せないのかと思う。それはもう考えたら涙が出てきますよ。どれくらいの人が犠牲になったんですか。日本人もアジアの人も、まだその苦しみを引きずっている人はいっぱいいますよ。
 そういうことをなぜ日本が教科書できちんと教えないのか、せめて小学校三年生くらいから徐々に教えていったら、みんな考えることがちがってくると思いますよ。変わってくるはずですよ。やっぱりアジアの人をもっと大事にしなきゃいけないっていう思想が生まれてくると思います。
 今の日本のやり方っていうのは、アメリカナイズされた、アメリカにペコペコ頭を下げているだけの日本ですよ。とにかくアメリカの言うことを聞いていれば安全という、何にもできない日本ですよ。そんな人たちがなぜ首相になれるんですか。政治もめちゃめちゃな政治。前の首相の「日本は神の国」とか、ほんとにひどいよね。
 もっと大事なことはね、道徳心が国民全体になくなっている。消えつつある。やさしかった真心、真の心というものがなくなりつつある。いままでの日本人は、僕らもそうだったけど、人を大事にする、あわれみを持つ、ということを教わってきた。それがいまどうなっていますか。若者は、男はみんな女みたいになっちゃってるし、女が男みたいになって逆にほんとうのやさしさを失っちゃってる。みんな耐えるということができなくなってる。日本人が本来持っていた大切なものをなくしつつある。それにみんな気がついてない。国がだめになるわけですよ。

●日系企業──現在につながる姿勢
●瀬戸さんはお若い頃、日系企業で働いたことがおありなんですか。
■住友で肥料を売っていたことがあります。日本人にはよく利用されました。住友に入る前、個人でやってた時、代理店契約みたいな仕事をやりました。こちらが得意先の販売店を探してあげて、それからLC(信用状)を開いて、日本から直接荷物がその店に入るというやり方をしてました。もう一つは自分で雑貨をやって売ってましたけど。結局コミッションベースでやったところは全部だまされました。コミッションを払ってくれない。例えば製材機を一台売ったら、いくらと。給料付なんだけど、給料はごまかされるわ、売ったはいいわコミッションはもらえない。タイヤもそうだったけど、それも注文をとってあげたら、すぐクビ。会社も作ってあげたわけですよ。苦労して。そしたらすぐ「瀬戸さん、もうけっこうです」ってクビ。会社作ってあげて代理店をとってあげたんですよ。取れたらコミッションが出る、タイヤ一本につきいくらっていうコミッションが出るという約束だったんですよ。それが全部だめ。ほんとにすっからかんになっちゃった。それで水道の水を飲んで暮らさなきゃならない事態もあったんですよ。しょうがないから何でもやらなきゃならない、食えないから。だから日雇い仕事も何でもしたんですよ。
●そういうやり方が、タイの人たちに対しても、一般的にずるいという印象を与えているんでしょうね。タイ人に対しても無責任なことが行なわれていたりする。お金にモノを言わせて札束でほっぺた叩いて強引に利益だけを得ていくようなケースがありますよね。そういうようなことは瀬戸さんからご覧になっていかがですか。
■日本の企業で働いた経験から言うと、日本のやり方は何でも引き込んじゃう。聞き取って自分のものにしちゃう。この丸い形はどうか、もう少し細長目に、もう少し高めにとか、細かい注文をつけて、規格化する。そしてそれは日本が全部利用するだけで、こちらには何の見返りもない。だからタイの人たちは「日本人はずるい」とよく言ってますよ。何でも持っていっちゃって、何にもしてくれない。自分の都合のいいようにしかしない。
 で、駐在員で来る人たちはとにかく売り込み、売り込み、売り込みです。売り上げを上げなきゃならない義務がある。必死です。その売り込みを直接やるのはだれかというと、僕らなんですよ。僕らはいつまでたったって現地採用、現地雇いですからね。給料も上がらない。ボーナスも上がらない。日本人のほうはどんどん上がるわけですよ。だから僕は住友にいたときも一度正社員にしてくれって言ったことがあったんですよ。でも、だめだって。だから僕は辞めちゃったんですよ。いくら能力があって、日本人より多くいい仕事をしても、だめなんですよ。こんなだったらいつまでいたって意味がない。だって日本の正社員にならなかったら、課長にもなれない。何にもなれない。要するに昇級できない。管理職にはなれないんですよ。ほんとの平社員で一生終わっちゃう。自分が力がないんならそれでいいですけど、自分より力の劣る者がそれほど働かずに高い給料をもらってるっていうのは、我慢できないですよね。
●人間として認めてくれない。能力や実力を認めない、ということですよね。
■他の外国企業は逆なんですよ。学歴や国籍はどうでもいいんです。どの程度能力を持っているか、それだけなんですよ。学歴を見せてくれと言われたことは一度もない。でも、日本企業はそうじゃない。どこの大学を卒業して、どうのこうの、じゃ履歴書を持ってきなさい、と。全然ちがう。しかも外国企業は給料もどんどん昇級していく。日本は現地採用の者はたいへんです。なかなか上がっていかない。ごくまれに工場長にしてあげるからというようなこともある。でも、自分の権限は何もない。名前だけ。名目だけの工場長だったらならないほうがいい。タイ人を馬鹿にしていますよね。
●前号でお聞きした戸籍の問題にしても、ほんとうに人間として認めてくれるのならば、そこで対応してくれてもいいわけですよね。
■そういうのは全然ない。冷たいし、初めから通知だけで処理して、ペーパー主義なんですよ。こっちがどんなにがんばって、いっしょうけんめいやったってね。だめなんですよ。こっちの家庭裁判所で審査してくれたんですよ。日本人と認める、と。それでもだめなんですよ。しかもタイで保証されたペーパーが、ペーパーじゃないわけですよ。ペーパー主義に加えて、アジアへの差別主義がありますよね。裁判所が出した保証書を認めないんですから。だったら大使館で発表するなっていうんですよ。なんで日本人と認めないのか、認めないんだったら白紙を出しなさいっていうことですよ。トイレットペーパーじゃないんですから。


●組織ピラミッドの弊害
●そういうことは今も変わらずにあるんですよね。
■今もあまり変わってないですよ、融通のきかない国家。利己主義国家ですよね。人を助けてあげようとか、あわれみとか、そんな気持ちを持っていないもの。例えばカンボジア国境にカンボジア難民がどっと溢れてきたとき、日本は最初何をやったか、金だけをどーんと投げたでしょ。ほかの国はどうやったか、人を出してきたでしょ。それだけちがうんですよ。ほしいのは金じゃない、金だけじゃできないときがある。人がいないと助けられない場合があるわけですよ。歩けない人や死にかけている人がいっぱいいるわけだから、それを介抱する人が必要なんです。お金じゃない。もちろんお金も必要ですけど、それはあとからでいいんですよ。だから当時あまりの難民の惨状を見て、タイに来た若者たちや旅人たちから「自分たちの手で助けよう」というボランティアがいっぱい出てきたわけですよ。自主的にね。それが日本の海外ボランティアの始まりだったんですね。その当時ボランティアといっても政府は認めなかったわけですよ。ひじょうに冷たかった。むしろ邪魔をしたくらいですよね。今はある程度大事にするように、認めるようになったけど、七九年頃を見てご覧なさい。人のために尽くしている人をよくないと見ていた。肩書もないくせに邪魔だ、と馬鹿にしていた。僕は難民のように困っている人を一生懸命助けようとするボランティアの人たちを偉いと思うけど、日本では組織や機能ピラミッドが優先して、下から自主的に動こうとする力をむしろつぶしていく。えらぶってね。日本では地位の高い者が力を持つんですよね。まず政府や官僚があって、その下にJICAなど政府系組織があって、それから大企業があって、その下に中小企業があって、最後にNGOなんかが来る。当時はボランティアは虫けらのように見られていましたからね。日本の場合は肩書きの世界、地位の世界ですよ。硬直している世界ですよね。社会が腐敗しちゃってますよ。もう全体構造を変えないとだめです。やる気とパワーとビジョンを持った人たちがどんどん出ていって、よい方向へ力を発揮していくようにしていかないと、硬直した組織のなかで中身がどんどん腐っていってしまう。その状態が現在の日本ですよね。
 本社があって、こちらに支店を作りますよね。支社がいっぱい出てくる。子会社がいっぱいできちゃう。本社がガタガタになるとこっちの子会社をつぶしていっちゃう。派遣された人たちは呼ばれて戻っていく。本社へ戻ったら行く場所がない。結局最終的にクビ。おまえたちの責任で会社がこうなったんだってやられちゃう。タイならタイ、フィリピンならフィリビンでもいいです。出張してきた人が社長になっているわけだから、そういう人が呼び戻されてクビ。でもそれは上司の命令でやった、それで出てきて子会社を作った、でも都合が悪くなるとクビ。努力も苦労も何も認めてあげない。悪いのは上司じゃない。悪いことはみな部下のせい。だからクビ。部下は家族を抱えている。子供もいる。それでこれからどうやって生活していくんですか。車も使えない、全部お手上げ。会社をつぶされちゃったわけだから。上の方からの命令はやりっぱなしなんですよ。それまでどれくらい働いてきたんですか。仕事っていうのは、時間制限なし。朝の九時から夕方の五時までなんてそんなのなし。何時間でもやっていかなきゃならない。上司の顔色をうかがって、絶えず上司の目の色を気にしてやっていかなきゃならない。そんな社会は人間を卑屈にしますよ。だから皆で皆の足を引っ張り合う。建設的な意見や方向を潰し合う。社会がよくなるわけがない。あたたかみや余裕など、人間の持っている本来の結びつきがぜんぜんなし。むしろそれを自分たちで断ち切っている。自分で自分を追いつめている。どんどん砂漠へ自分たちを追いつめているんですよ。気がついたらもう死がそこまで来ている。なんのための人生ですか。
 それじゃ人間として暮らしていけないですよ。東京なんかでも自分で家買えないでしょ。やっぱり大事なものはまず家庭だと思いますよ。あたたかい家庭を営むために仕事がある。でも日本はそれができない社会になりつつある。狂ってきている。だから若い人たちもみんな旅行へ行ったりしちゃうわけですよ。日本の閉塞的な息の詰まる社会から出ていく。そんなだからお金はたまらない。国民は実際にはピーピーしている。若い人は自分のやる気や情熱が生かされないもんだから、欲求不満のまま外国と日本を行き来している。会社に一生を託す気は持てない。みんな心はさまよっている。
●いま日本の経済は悪くなってますよね。やはり瀬戸さんからご覧になって、そうなった理由というのはどういうところにあるんでしょうか。
■やっぱり傲慢さから来ていると思いますよ。ガーッと上がったからね。それで傲慢さに拍車がかかって、よけい硬直化した。傲慢さのようなものは自然な流れを悪くする。阻害するんですよね。それで落っこっちゃった。落っこちてまだ楽観してる。これからがたいへんなんですよ。日本は食糧の輸入国ですよ。食糧はほとんど輸入している。エビから飼料から何からほとんどでしょ。これでお金がなくなって、物を買う力がなくなったらどうなりますか。いまでも日本は心理的には東南アジアの人々から嫌われてますよ。ここで日本が親切な、あたたかい気持ちを持ってやっていかなかったら、世界から相手にされなくなりますよ。いまでも「日本は、えばっている」ってアジアの国々から嫌われている。お金にモノを言わせて、何でもやる勝手な国だってね。お金がなくなったら、それに対する反発心理がどっと噴き出してくる。それがこわいですよね。
 日本はいま現在のことだけで精一杯、さきのことなんかとても考えている余裕はないように見えますよね。先のことが考えられない国民や国家は、結局衰退していくんですよ。
●瀬戸さんからご覧になって、日本の国力や、日本人自身の力が衰えたその理由は何だと思いますか。どういうところにあるんでしょうか。
■根本は精神的なところにあると思います。いま日本人の精神はとても弱いです。ひ弱な人間が増えてる。もう一つ言えることは教育がだめになっているということです。教育でもっと人間の力をつけなきゃだめだと思います。体力もつけなきゃだめ。日本の銭湯へ行っても、男の体を見てると、みんな筋肉のない、のっぺりしたもやしみたいな体ですよね。これでいいのかなと思うくらい、ひ弱な体をしていますよね。それで薬品や医者にばっかり頼っている。会社員というのかな、みんなゲソーッとして、筋肉がとろけちゃってて、見るからに頼りないですよね。まだ七〇歳の僕のほうがあるくらいですよ。体型が全然ちがう。みんなストーンとしていて、のっぺりしてますよね。ブロイラーの鶏みたいな柔らかい肉を連想させますよ。僕といっしょに歩くと、すぐ日本人は音を上げて、「ちょっと休みましょう」という。ほんとにすぐへばって動かなくなる。「あと一キロでしょう。がんばりましょう」と言っても、へたっちゃう。そういう意志や強さがなくなっている。絶対にやらなきゃっていう強さが薄れている。スポーツを見てもそうですよ。負けじ魂というようなのは、むしろ中国や韓国に感じられる。根性とか、忍耐とか、そういう人間の一つの能力が衰えていってるんですよ。それを育てるものはやはり教育と家庭ですよ。いま家庭は本来のあたたかさがなくなっている。両親が共稼ぎで、子供はひとりぽっちで帰ってくる。寂しくなる。孤独になる。もう何でもやりたいことやって、いいほうへ行ったらいいけど、悪いほうへいったらどうにもならない。これが現在の日本ですよ。日本はいま未来のビジョンを示して教育改革をやらないとだめだと思いますよ。(次号最終回へ続く)

第2回
アジアから見る日本の姿
瀬戸正夫さん
アジアウェーブ100号記念
特別連載インタビュー

SPECIAL LONG INTERVIEW