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中国貴州流離旅行
スケッチブックを携えて
その1
村田広幸
絵・写真・文




飯櫃と菠菜     1999.2.24 貴州省・従江

 私が泊まった宿の食堂の人と親しくなり、私は厨房を覗かせてもらい絵を描くことにした。瑞々しい野菜を切る音、ごはんの炊ける匂い、手際良く調理する料理人達。厨房の中は活気があった。親しくなった人の娘に陳ルイという名の小さな女の子がいて、私に興味を示し私のそばから離れなかった。米櫃を描き始めた私の手をじっと見つめていて、時々筆洗用の水が汚れたといっては綺麗な水に入れ替えてくれる。自分も出来ることがあれば何か手伝いたいのだろう、絵が完成するのを心待ちにしているのがわかる。数分後描きあげたこの絵を見て彼女は「好(ハオ)!好(ハオ)!」と言って喜んでくれた。陳ルイそして従業員達と雑談しながら私は一人料理を食べ、ビールを飲んで乾杯した。



村の中を元気に遊びまわっていた子供達。
彼らと一緒になって私も遊んだ
1996.4.17 貴州省・台江(タイジャン)


    貴州黔東南山系印象     1999.2.23 貴州省

 榕江(ロンジャン)から従江(ツォンジャン)へと走るバスの中から私は延々と続く緑の山ばかり見ていた。山水画のような風景に心奪われて、乗り心地の悪いバスのことも整備されていない道の悪さのことにもさほど気になることはなかった。四時間かけて目的の町に辿り着きバスターミナル近くの宿にチェックインした私は早速先ほどの車窓からの風景の印象を薄暗い部屋の中で描き始めた。完成した絵を宿の女性従業員に見せたところ彼女は「素敵な絵ね、私の住む貴州の山を描いてくれてありがとう」と言った。




      霧雨の朝     1999.2.23 貴州省・榕江

 朝チェックアウトして外に出てみると霧雨だった。傘もささず、朝もやの中の農村風景を見ていると絵を描きたいという衝動に駆られ寒さも忘れて筆を動かし始めた。私の行動が気になるのか絵を覗き込んでくる人があとを断たない。すぐに立ち去る人もあれば立ち止まってじっくり見てる人もいる。いつの間にか私の周りに人だかりが出来ていた。描きあがった絵を彼らに見せると皆満足そうな顔を浮かべ頷いていた。私は彼らの笑顔を見られたことが満足だった。


  仕事を終えて家路につく村人。足取りはゆっくりのんびりと
  1999.2.24 貴州省・貫洞(ゴワントン)




     洛香への道     1999.2.24 貴州省・貫洞

 今日一日何も予定の無かった私は近郊の村へ行ってみようと思い立ち、親しくなった宿の従業員におすすめの場所を訊いた。「貫洞(ゴワントン)がいいよ、日帰りで行けるし、なんといっても私の出身地だから」と、彼女は答えた。私は貫洞行きのバスを探して飛び乗った。バスというよりもワゴン車であり、それはひどい車だった。ドアは立て付けが悪く、シートはボロボロ、窓ガラスも所々ひびが入っている。スプリングも性能を発揮せず凸凹道を走る一時間の間に何回頭を天井にぶつけたことだろう。貫洞に到着したときは心の底からホッとした。太陽が照って暖かい今日は久し振りに気持ちがいい。辺り一面咲く菜の花の中を散歩し何枚か絵を描いた。場所を変えここからさらに先の町、洛香(ルオシャン)まで続く道の途中で腰を下ろし描いたのがこの絵である。宿に帰り数枚描いたうちの一枚を朝の従業員にプレゼントするととびっきりの笑顔で喜んでくれた。





    黄果樹瀑布      1996.4.10 貴州省・黄果樹

 貴州省で最も有名な観光名所がここ黄果樹(ホワングォシュウ)にある滝である。高さ七十四b、幅八十一b、アジアでは最大の規模を誇っている。貴州へ来たからには一度は見てみたいものだと思い、貴陽(グイヤン)から安順(アンシュン)へバスで、翌日黄果樹までミニバスを利用した。バスを降りるとゴーッという音が聞こえる。とりあえず近くのホテルにチェックインして荷物を下ろし、絵を描く準備をして滝のすぐ近くまで見に行った。下から見上げる滝は巨大で呑み込まれてしまいそうなほど迫力があった。滝の裏側も歩いて通り抜けることが可能だと知り、ぐるっと裏に廻って手に触れられる近さまで足を運んだ。水飛沫が全身にかかり道もかなりぬかるんでいて、ちょっとした冒険気分を味わいながら滝の裏側を眺めていた。




  温もりのある木造民家    
              1996.4.16 貴州省・台江・朗等村

 町中を散策していた私は川沿いの集落に迷い込んでしまった。そこは木造建築の伝統的な苗(ミャオ)族の住居であり心惹かれた私は絵を描こうと思った。あるところで腰を落ち着けて描いていると地元の人達が通りすがりに私の絵を見ては批評していく。苗族の言葉なのかこの地方の方言なのか、彼らの言葉の分からない私はただ笑顔で「謝謝」と言った。ここの家の住人が私の絵を見に来て満足そうな顔で「お茶を飲んでいけ」と言う。土間に案内された私はお茶を飲み、漬物を食べながら雑談してのんびり過ごした。子供たちが学校から帰ってきて、旅人である私に興味を示し日が暮れるまで一緒に遊んでいた。夕飯も御馳走になり次の日もまたここを訪れた。