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春節
イラスト・文
はとうゆきお
  中国のお正月






























































 街の風景があわただしくなり、今年もまた「春節」(ちゅんちえ/中国正月)がやって来ます。
 世界中の華人にとって、いちばんうれしい季節です。
 中国では昔から、「農暦」(のんりぃ)と呼ばれる太陰暦に従って、農作業を進めてきました。
   春耕(ちゅんくん/春に耕し)
   夏耘(しあゆん/夏に草取り)
   秋収(ちうしょう/秋に刈り入れ)
   冬藏(とんつぁん/冬には蓄える)
  
 …そして一年の収穫を終わり、一息つくとき、それが正月なのです。
 ですから日取りは、民族によって違います。たとえばハニ族の正月は、刈り入れが終わったあとの二日間です。
 この時期はまた結婚の季節でもあり、正月にたまさか山を訪れた人は、格別のおもてなしを受けて帰ってきます。
 この頃、東南アジアの海辺は、脚のすらっと伸びた香港人小ギャ姐ルでいっぱいになります。
 ちなみに、香港ギャルを「香港小姐」と書くと、意味が違ってきます。毎年バカ騒ぎで選ぶ、あの「ミス・ホンコン」のことになってしまうのです。
「農暦」のカレンダー、兼、解説書を、「通書」(とんしゅう)と言います。縁起を担いで「通勝」(とんしぇん)とも呼ばれます。
 大陸では長く宗教が否定されていましたので、東南アジアの中華街で売られている「通書」も、香港の「永經堂」(よんちんたん)か、「聚寳樓」(ちゅいぱおろう)という、二つの出版社のどちらかになっています。
 私は「永經堂」の表紙絵のファンですね。
 この暦には、その日にやって良いこと・悪いこと、縁起のいい方角・悪い方角、冠婚葬祭の吉・凶など、日常生活上の注意がこと細かく書かれています。
 またとじ込み附録として、「符咒」(ふぅちょう/魔除け)が付いています。
 華人の家へ招待されますと、玄関や神棚の横にこの御お札ふだが貼られているのを時々見かけます。
 既製品で物足りないという人は、「代書屋」の店先から、手書きの御札を買ってきて貼り付けます。
 しかしこういった御札を信仰している本人も、そこに何が書いてあって、どういう神様のものかということには、てんで無頓着です。
「鰯いわのし頭も信心から!」……です。
 
 農暦十二月のことを、中国語で「臘月」(らあゆえ)と言います。
 「臘月八日」は、釈迦が悟りを開いた日とされていて、「臘八粥」(らぁぱぁちょう)と言うお粥を食べて、お祝いします。
 それを過ぎると、人々は正月を迎える準備でおおわらわになります。街角には正月用品が山をなし、金と赤のおめでたい色に囲まれて、みんな、「ああ、今年も豊年、よかったなぁ」と、満ち足りた気分になるのです。
 あちこちの店先では、腕に覚えの店員が、路上に出した机の上で、「春聯」(ちゅんりえん)を書き上げていきます。
 これは、一対の赤い紙におめでたい言葉を書き並べたもので、華人はこれを見ているだけで幸せな気分になれるといいます。
       
 中国でも日本でも、大おお晦みそ日かの晩は皆で夜更かしして、一家団だん欒らんで過ごします。それには謂いわれがあります。中国の古い伝説に、次のようなものがあるのです。
 …昔、「年」(にえん)は、凶暴な獣けだでものした。
 いつもは山の中に住んでいましたが、年末になると山から下りて人を襲います。
 人々は年の暮れになると、夜、家の中に隠れて、眠れないままに朝を迎えたものでした。
 そのうち、「年(にえん)は、大きな音を出せば、怖がって逃げて行くらしい」という噂が広まります。
 それで人々は、爆竹を打ち鳴らし、鐘・鉦かねや太鼓を敲たたいて、年(にえん)を追い払うようになりました。
 そして年が明けると、お互いに、「年(にえん)に食われなくてよかったなぁ」と、祝福し合いました。
 お正月に爆竹を鳴らし、鐘や太鼓を叩いて、龍や獅子が賑やかに舞い踊るのは、年(にえん)を追い払うためだったのです。
    
 年が明けると、子供たちは「壓歳銭」(やぁすいちえん)というお年玉をもらいます。
「壓歳」の意味は、「歳をとるのを押さえて防ぐ」ということで、長寿を祝う風習です。
 子供が年長者に「尽礼」(ちんりぃ/礼を尽くす)をすると、年長者はお返しに自分の「寿」(しょう/長寿)を若者に分け与えます。
 そして、古い年にあった悪いことをすべて忘れて、良いことだけを記憶に残し、新しい年に向けて出帆するのです。
     
 壁に貼ってある「年画」(にえんふあ)という縁起のいいポスターを貼り替えるのも、春節の大事な行事です。
 盤谷(まんくう/バンコク)では、もうこの絵を飾っている家は多くないでしょう。でも北タイの華人の家では、ごく普通に見かけます。
   
 日本のお節料理と同じように、中国にもお正月独特の食べ物があります。
  糖…たん/甘いお菓子です。
  湯圓…たんゆえん/糯もち米ごめ団子入りスープ。
  青菜…ちんつぁい/「清」に通じます。
  魚…ゆい/「餘あまる」に通じます。
  棗…つぁお/ナツメの実。子宝の象徴です。
  橘子…ちゅうず/ミカン。幸運の果実です。
  麪條…みえんてぃあお/小麦粉の麺、つまりラーメンです。年越しソバと同じで、長寿を意味します。
  にえんかお…米の粉を蒸したお菓子です。
 春節のもう一つの重要な食べ物は、「水餃子」(しゅいちぁおず)です。ギョーザは、おめでたい食べ物なのです。
 日本で人気の「焼き餃子」は、まず見かけません。たいてい、スープに浮かべた「水餃子」です。なぜ「湯餃子」と言わずに「水餃子」と言うのか、それは中国四千年の不思議です。

 日本の初はつ詣もうにであたるのが、「拜神」(ぱいしぇん)です。
 何しろものすごい数の人が一度に詰めかけるものですから、年末年始の寺廟の中はたいへんな混雑となります。
 線香にむせる人、一心不乱に跪ひざいまずて祈る人。その誰もが必死の形相で、「ゼニ儲け、ゼニ儲け…」と拝んでいるのですから、「こりゃ華人にゃかなわんわい」と、感心せずにはいられません。

 正月十五日は、「元宵節」(ゆえんしあおちえ)、または「上元節」(しゃんゆえんちえ)と言って、夜になると、「元宵」(ゆえんしあお)というお菓子を食べてお祝いをします。
 餡あんを糯もち米ごめにまぶし、湯で煮たものです。
 現代では世の中が忙しくなり、正月五日にはもう会社が始まってしまいます。
 それでも「春節」は、悠久の歴史と、民族の伝統をかみしめる、最も人間味にあふれる日々だと言うことができるでしょう。
 それでは皆様、「新年快樂(あけましておめでとう)、恭賀發財(もうかりますように)!」