渋谷敦志 写真展

明日があるから〜国境に生きるビルマ難民は今〜









会期:2010年4月3日(土)〜4月14日(水)
午前10:30〜午後7時(最終日午後3時) 会期中年中無休
入場料:無料

場所:コニカミノルタプラザ・ギャラリーB(東京都新宿区新宿3-26-11 新宿高野ビル4F)  地図
最寄り駅:JR新宿駅東口、地下鉄丸の内線「新宿」駅A7出口から徒歩1分(フルーツの新宿高野4F)
お問い合わせ先:コニカミノルタプラザ(TEL:03−3225−5001)

プロフィール:渋谷敦志(しぶや あつし)
1975年大阪生まれ。東京在住の報道写真家。アジアプレス・インターナショナル所属。
ケニア、エチオピア、アンゴラ、中国、ブラジル、カンボジア、パレスチナなどの国を訪れ、戦争や貧困の中で生きる人々の姿を写真と言葉で伝えている。1999年MSF(国境なき医師団)主催のフォトジャーナリスト賞、2000年日本写真家協会展金賞、2005年視点賞・視点展30回記念特別賞など受賞。
HP:http://www.shibuyaatsushi.com/upgrade_flash.html
ブログ:http://www.ashibuya.tea-nifty.com/

ビルマの民主化と少数民族問題


シャン州南部の国内避難キャンプで生活する、少数民族アカ族の子供たち


今回の写真展のテーマは何ですか?

渋谷:2008年から2009年にかけて、タイとビルマの国境地帯を3度訪れて撮影した、ビルマ難民の写真約25点の展示です。スライドショーで他の写真や映像も上映します。
 アウンサンスーチンさんの自宅軟禁など、大きな事件が起こった時にだけ人々の関心がビルマに集まりますが、ビルマの抱える問題は民主化だけではありません。シャン族やカレン民族などの少数民族に対するひどい迫害が、長年にわたって行われ続けています。タイ側の難民キャンプでは15万人以上が避難生活を送り、ビルマ側にも故郷を追われた人々が50万人以上いると言われています。
 ビルマの軍事政権は、民主化のために今年総選挙を行うことを約束していますが、選挙をすればすぐに民主主義が実現して難民が救済されるわけではありません。少数民族に対する弾圧は民主主義下では絶対に許されないものですが、現実には今も多くの少数民族が軍事政権によって虐げられ、難民としての生活を強いられています。
 難民キャンプには滞在が20年以上にも及ぶ人々もおり、キャンプでの生活しか知らない子ども達も生まれています。しかし、辛い思い出を抱えていても自分の故郷に帰ることを強く望んでいる人々が、イラクなどの他の国の難民に比べて多い気がしました。
 ビルマで難民がどのようにして生まれ、日々何を感じながら一体どんな生活を送っているかについて、日本人にもっと知ってもらいたいと思います。


争いから生まれる難民たち

難民に関心を持ったきっかけは何ですか?

渋谷:高校生の時にベトナム戦争の写真を見たことがきっかけで、戦争や国際問題に関心を持ち、報道写真家を目指しました。大学在学中にブラジルの法律事務所に勤めながら、本格的に写真を撮り始めました。大学卒業後、アフリカでNGOの活動に参加している時に、紛争の結果として生まれる難民達に出会いました。
 2007年にジャーナリストの長井健司さんが、デモ隊の取材中に兵士に銃撃されて死亡する事件がありました。ジャーナリストでさえも、このように殺されてしまう国があることに非常にショックを受けました。翌年から、ビルマ難民をテーマに撮影取材を始めました。



ビルマ東部シャン州を拠点とする、反軍政府の少数民族武装勢力・南シャン州軍(SSA-South)兵士達
志願兵だが、他に仕事の選択がないので入隊した者達もいる。


日本のビルマ難民受け入れが2010年スタート

日本はアジアで始めて第三国定住プログラムに参加し、2010から年間30人のビルマ難民3年間にわたって受け入れる予定ですが、どのように考えていらっしゃいますか?


渋谷:
正直に言って、受け入れの準備が不十分だと思います。難民にどんな援助が具体的に必要か、という議論が活発に行われていません。日本在住のブラジル人達の現状を見ても、ビルマの難民達が日本で幸せに生きていけるのか不安を感じます。実際、米国やオーストラリアなど他の候補国と比べて、日本への定住希望者は少なかったそうです。難民達は、日本での生活についてとても心配しているでしょう。
 難民は、信仰、移動、職業の選択など基本的な自由を奪われた環境に置かれています。第三国定住プログラムにより、確かに難民はこのような境遇から抜け出すことはできますが、難民を作り出した原因の根本的な解決策にはなりません。また、難民達が安全な帰国を選択できるようにしなければならないでしょう。ビルマという国家の存在そのものについて僕は否定しません。ビルマ建国の父だったアウンサン将軍(アウンサンスーチー女史の父親)が存命の頃は、連邦国家にする案もあったようです。この構想で全ての民族問題が解決できたとは思いませんが、明らかに現状よりも少数民族の権利は保障されていたでしょう。ともかく、今の状況は少数民族にとって苛酷過ぎます。
 日本は経済大国として、国際社会においてある程度の影響力を持っています。第三国定住プログラムの実施と並行し、日本が難民のためにできることは多いはずです。例えば、国連でビルマの軍事政権の人権侵害について議題に取り上げることです。内政干渉と非難されるかも知れませんが、ビルマとの外交において、経済援助と経済制裁のアメとムチ使って、国民に対する暴力的な取締りを改善するように要求することも可能でしょう。 
 まずは、日本人が受け入れるビルマ難民について「知ること」が大事だと思います。なぜ彼らが難民となり、どのような文化と歴史を持ち、日本に来ることになったのかについてです。難民というと弱者のイメージが強いですが、ビルマの人々は豊かで多彩な文化を持ち、高い教育を受けた人々が理想を掲げて建設した国家です。
 日本に移住した難民達が、ビルマと日本の架け橋となって新しいビジネスのチャンスを作り出すかも知れません。難民達は逆境に強くて人の痛みを知っていますから、福祉や国際協力の分野などで実力を発揮するパワーと可能性もあります。


取材:冨久田純


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