@アンクルン













Aアンクルンは手作業で竹から作られている




































*連載18 「アンクルン 
                   
エッセイスト・ラフマン愛


11月18日、インドネシアの伝統楽器アンクルンが、ユネスコ世界文化遺産に認定された。ここのところ災害などの暗いニュースばかりであったインドネシアにとって、久々の明るい話題である。

アンクルンは、インドネシアの中でも特に西ジャワ地方の伝統楽器である。スンダ王朝(12世紀〜16世紀)のころ、豊作を祈願した祭礼で用いられるようになった。インドネシアがオランダの植民地であった300年間は演奏が禁止されたが、1945年に独立してから、アンクルンは再び人々を癒す音を奏でられるようになった。現在では、おもに西ジャワの人たちが文化交流の一環として、国内外問わずコンサートを行っている。また、演奏法が簡単なので幼稚園でもアンクルンをするところが多い。音楽療法としてリハビリでも用いられているところもある。現在ではインドネシアに根付いた伝統楽器となった。

打楽器の一種であるアンクルンは、基本的に一音しか出ない。竹の長さによって音が違うので、演奏するには何人かのグループですることになる。例えばドミソの和音なら、ド、ミ、ソ、それぞれのアンクルンを持っている人が3人そろって揺らせばきれいな和音となる。左手で上部を持ち、右手で下部を持ってそのまま揺らせば音が鳴るので、何も難しくはない。音色はまさしく竹。筒を通って出たほんわりしたものである。響きはとてもやわらかくて、その割に体の芯まで振動してくる。目を閉じて聴いてみると、異国の空の上に浮かんでいるような気分にさせられる。アロマテラピーや、エステサロンなどでアンクルンの音が流れると、心身ともにリフレッシュさせる効果がありそうだ。


B幼稚園でのアンクルン練習風景 その1 


先日、アンクルンを習い始めたばかりの幼稚園児を訪ねてきた。幼稚園用のは、音が見て分かるように、それぞれ1から7まで番号が書かれてあった。1音3人ずつで、番号を見て、自分の担当音のアンクルンを手に取る。習い始めて一ヶ月ほどの園児たちだが、もう持ち方は完璧に覚えていた。揺らすだけなので、音を出すのもお手の物。前のホワイトボードに数字が書かれていて、先生が「1」と言って指すと、1の音の子らが鳴らす。「3,5 7同時に」と言われると、戸惑ったり遅れをとったりする子もありながら、少しずつハーモニーを作り出していた。個人個人で鳴らすのは簡単だが、それを一つの和音や曲にしようと思ったら、連帯感が大切な楽器である。半年後にはお遊戯会で演奏するそうなので、そのころにはもっとみんな仲良くなっていて、さらによいハーモニーが作り出されていることだろうと、ほほえましく見学させてもらった。


C幼稚園でのアンクルン練習風景 その2

インドネシア社会でもっとも重要視されている点は、相互扶助の精神と言われている。日本人から見るとわずらわしいほどに、インドネシア人は世話焼きであり、助け助けられかまい合っている。一人ぽつねんとした孤独者はいない。家族、友達、ご近所さん、誰かしらが必ず手を差し伸べてくれる。たとえ知らない道で転んでも、そばにいる人全員が助けて手当てをしてくれる。アンクルンは正に、そんな社会を反映しているかのような楽器ではなかろうか。アンクルンで一つの曲を演奏するということが、一人一人お互い助け合うということにつながっているように思う。インドネシアにはぴったりの楽器。その癒しの音に今日もまた人々は助けられていくのだろう。このたび世界文化遺産に登録されたのを機に、アンクルンを通してインドネシアのすばらしい面も世界の人々に知ってもらえればなおうれしく思っている。


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