*連載16 「ラスカルプランギ 
                   
エッセイスト・ラフマン愛


 去年、インドネシアでもっとも流行った大人気映画「ラスカルプランギ」について紹介しよう。

 「ラスカルプランギ」(laskar pelangi)は、元はアンドレア・ヒラタというインドネシア人作家の小説で、それが映画化されたものである。

 舞台は1970年代、南スマトラの小さな島にある、生徒10人に校長先生と担任のムスリマ先生だけの小学校。先生らは無給、制服もないこの貧しい学校で、子供らは成長し、いろいろなことに挑戦していく。ラスカルプランギとは、日本語で「虹軍団」。クラスも学年も分かれていない生徒らのことを、先生がこう呼んだ。先生と生徒の愛、信頼関係、すべてがさわやかに描かれている。「二十四の瞳」を思い起こさせるものがある。



 なぜこの映画が大ヒットしたのか。これはもう‘ノスタルジック’の一言に尽きる。日本でも昭和のレトロな雰囲気のある映画(「Always 3丁目の夕日」など)がヒットしたように、インドネシアも懐古志向が強まっているようだ。音楽は当時流行したものを取り入れるのはもちろん、細かい小道具にいたるまで、70年代のインドネシアを強く意識したものであった。実際、私はその時代のインドネシアについて初めて映像で見たので、話の内容よりもその周りの景色や物に目を奪われていた。今ではバイクが占領している道も、爽快な風と自転車が駆け抜けていく。大人用の自転車を子供が乗るため、みんなサドルに座ることができずに立ちこぎ。足をいっぱいいっぱいに伸ばして颯爽と足を上下する姿、見ているこちらまで稲穂や木々の香りが漂ってくるようだった。空気のきれいさとともに、子供の純粋無垢さもうまく伝わってきた。

 ノスタルジックと言う点だけでなく、ヒットした理由としてもう一つ挙げられるのは、貧しくても負けない、打ち勝つ心が色濃く描かれていた点である。学校自体がとても貧しく、傾いた壁は校長先生が大木を持ってきてつっかえを作ったり、算数の授業では竹の棒を使ったり、制服はムスリマ先生が一人で縫ったりと、手作り感たっぷりの学校である。生徒らも無いなら無いなりに考える。他校と交流の催し物では、いろいろな葉っぱで工夫を凝らした扮装した踊りをして、優秀賞を勝ち取った。その後転校生がやってきたり、校長先生が亡くなったりと、この「虹軍団」のチームワークに危機がおとずれるのだが、やっぱりみんな学校が大好きで、困難を乗り越えてよりいっそう志気が高まっていく。そしてラストに他校とのクイズ大会ですばらしい結果を勝ち取る、その過程が、とてもうらやましく思え、また、自分もやる気にさせられる。何も無くてもここまでやれるんだという努力と創意工夫に魅せられる。現代社会において、忘れ去られようとしているものを映像でしっかり目に焼き付けてほしいという思いから、学校遠足でこの映画鑑賞に行ったところも多かった。大人にとってみれば懐古的に心に響く映画、そして子供たちにとっては夢や希望をもたらしめる映画である。



 アンドレア・ヒラタの小説は、その後また映画化された。「ラスカルプランギ」の続編で、「サンプミンピ」(sang pemimpi)である。もちろんこちらもヒットした。1980年代、虹軍団のうちの3人が高校生になり、その後2人は大学生、そしてフランスへ留学していくところまでを描いている。これも貧困と闘いながらも、夢を持ち続ける青年の姿である。紅一点だった女性の先生が今回は登場せず、学校の中よりも、3人の青年の普段の生活が中心に描かれており、その点では前作よりも勢いがダウンしたことは否めない。登場人物や物語構成を除けば、カメラの撮り方は変わらずノスタルジックで、どの場面もすがすがしさを感じる。

 インドネシアの映画は、ミニシアターでもない限り日本では公開されることはないが、なかなか乙な撮り方をしているので、ぜひ、機会があればおすすめしたい。私はこの次は、アンドレア・ヒラタの小説にチャレンジしてみようかと思っている。この2作以外の作品を、次回作が映画化される前に。読破するまでどのくらいかかるかは考えないでおくとしよう。


HOME