*連載14 「カポック綿で枕作り 
                   
エッセイスト・ラフマン愛



 かなり損傷している我が家の枕。子供らが放り投げ振り回して虐げた結果である。何度も綿が出てきて縫い直してきた。しかしもうぺっちゃんこの限界。子供らへの注意もし疲れた。ということで、新しい枕を自分の手で作ることにした。
 
 枕の中身はカポック綿。インドネシアではどこにでも生えている大木カポック、その身がカポック綿である。カポック綿は主に枕や敷布団に使われる。その他あまり知られていないが、救命胴衣やソフトボールの中身としても使われている。実である綿だけでなく、その皮もまた、紙の原料や飼料に使われている。そして木は防音壁になり、葉は飼料や薬として、種はランプの油になるなど、すべてが有効的に利用されている。

 

 木の高さは10m以上。苗木から2年程度でその高さになる。ただ、たくさん枝を張りめぐらして実を付けるようになるには7年ほどかかる。樹齢は枝や実の多さからだけでなく、幹を見てもわかる。若いものはごく普通のつるっとした幹であるが、年月が経つにつれ、独特のトゲをおびてくる。そのせいか、どんなインドネシア人でも、ココナッツのようによじ登って実を取るということはしない。青い実が褐色味をおび、パカッと開いて綿が見えたらそれを棒でつついて振り落とす。だいたい50個ほどあれば一つの枕を作れる。木一本からは25kgの米の袋が3袋分ほどの綿がとれる。

 

 

 さて、いざ枕作り。綿を入れる枕カバーは、娘のベビーベッドのシーツを塗って再利用。問題は実を木から落として皮をとる作業。カポックの木がいくつも生えている、田舎のおばあちゃん(夫の祖母の妹)の家へと向かう。前日に電話をしておいたら、もうすでに25kgの米袋一つ分の綿を用意してくれていた。日の出とともに起床し、田畑の農作業をして、日の入りとともに就寝するおばあちゃん。じっとしていられずに農作業のかたわらで綿採りをしていてくれたようだ。その綿は採れたてのフワフワ。頭が沈むホテル並みの枕を思い浮かべてうれしくなってくる。

 

 すべて手で採取したので、多少種が残っているが、それもまたおばあちゃんの味。部分部分で綿がかたまっているところもあるので、ほぐしながらカバーに詰めていった。この詰める作業がけっこう大変。ほぐしたら細かい綿があっちこっちに浮遊していくし、まとめていれようとするとほぐれていない。とてもじゃないが屋内ではやりたくない作業だ。それでも服にいっぱい綿をつけながらどうにか終えた。「私は枕は硬いよりも柔らかいほうが好きだから」と言ったら、おばあちゃんはよりほぐして満遍なく整えてくれた。まだまだ初心者の私。そしておばあちゃんのOKをもらい、最後に口を縫って完成。
 
 

 おばあちゃんのおかげであっという間だった。家に帰って天日干しし、早速その枕の上に横になってみる。頭を置くと、はちきれんばかりにパンパン。欲張って綿入れすぎたかな。それでも今までよりも断然柔らかい。枕の中に柔軟材を注入したかのごとき心地よさ。早く眠りにつけることまちがいなしだ。これは家族全員分の枕と抱き枕も作らねばという気になった。残りの綿もおばあちゃんが持たせてくれたので、明日からとりかかることにしよう。日本では、綿花をとってきて自分で枕を作ろうなんてことはまずしないだろう。インドネシアのカポック綿に目覚めた私、来年の収穫期にはおばあちゃんと一緒に座布団でも作って、お茶でも飲もうかと思案中である。

 
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