*連載13 「トラジャコーヒー〜トラジャ旅行記後編〜 
                   
エッセイスト・ラフマン愛



  トラジャといえば、コーヒー通にはよく知られているトラジャコーヒーが、名産品として有名である。そのトラジャコーヒーを加工する、標高1000mの農園へと足を踏み入れてきた。
 
 崖と谷に挟まれた岩だらけの道を、トアルココーヒー(トラジャアラビカコーヒー)ガイドさんが四輪駆動車でぐいぐい突き進む。途中、何度頭やあごをぶつけたことだろう。農園までの道の険しいこと険しいこと。聞けば山全体にコーヒーの木がなっており、すべて人間の手によって摘み取られているとのこと。この道なき道を一粒ずつ摘み取っていく農園従事者の大変さを思うと、インドネシアのマンパワーは限りないものがあるなと感じる。
 


@コーヒーの木


 農園、いや、コーヒー山と言ったほうがいいだろうか、その頂上に着き、辺りを見回すと、雲が真頭上にあり、肌は涼しく感じ、私と同じくらいの背のコーヒーの木々があっちにもこっちにもいっぱい生えていた。植物を求めて、蜂などの虫も多く飛んでいた。涼しい高地ほど質のよいアラビカ種のコーヒー豆ができる。山のふもとにもたくさんコーヒーの木があったが、それは香りがそれほどよくなく、アラビカ種ではないのだそうだ。また、高地のコーヒーの木は、約160cmから170cmの高さで統一されている。高く成長してしまうと虫が付きやすくなるためであり、そのほかにも、そのぐらいの高さであれば手で収穫しやすいという理由だった。目の前になっているたくさんの実の中から一つ手にとってみる。赤さも大きさもまるでさくらんぼのようである。皮を指先でプチュッと押すと、実がポロンとでてきたので食べてみた。

 「あまっ。」

 ごく普通の苦いコーヒーからは想像もできない甘さが、口の中にほわんと広がる。しかし果実部分は非常に少ないので、種をしゃぶっているかんじ。種をぺっと吐き出す。この出した種こそが、あの真っ黒いコーヒー豆になるとは。昔の人はよくこの種を利用しようと思ったものだ。すごい発見としか言いようがない。



Aコーヒーの実


B実を取り除いて、豆を乾燥させたもの
 

 さて次に、頂上から少し下ったところに加工場があったので、そこも見学させてもらった。実から豆の部分を取り出し、それを乾燥させる。そしてさらに薄皮も剥かれて大きさごとに選別されていく。ここまでの過程は、機械が使われていた。乾燥させた時点では、大豆のような色形であるが、薄皮をとると薄い青か緑のような色だった。これを女性作業員たちが、全部良いものと悪いものに分けていく。班に分かれており、選別には何人ものチェックが入る。ひたすら机上で豆を選る作業は、見ているだけでも目がしばしばしそうだった。それが終わればA級品は梱包されてすぐに出荷する。いいものはほとんど輸出されていくらしい。豆を炒って粉にする工程は、出荷先で行われているということだった。
 


C女性作業員が豆を選別しているところ


D右から、乾燥させたもの、その後薄皮を剥いて選別されたもの、炒ったもの、粉状にしたもの


 農園事務所にて、トラジャコーヒーのA級品を飲ませていただいた。苦味のあとにくる酸味を、香ばしさがまろやかに包む。一口含むだけで深く濃厚な味わいがあり、ゆったりとした雰囲気の中にのめり込んでしまいそうだった。お恥ずかしながら私はカフェインアレルギーのため三口しか口を付けられず、お粗末な感想で申し訳ないのだが、とにかくコーヒーを飲める人には全員飲んでほしい、そう思わせる印象深い風味であった。毎朝インスタントコーヒーを飲む夫が言うには、

「どんな人でもこのコーヒーは砂糖・ミルクを入れなくても飲める。」
と、そのまろやかさと深みのある味に驚いていた。ガイドさんも、
「そうとも。一つずつ手作業で摘み取って選別した本物のコーヒーだからね。」
と誇り高く笑顔で言っていた。

 そんなトラジャコーヒーの信念を貫き、いつまでも良質のコーヒーを生産していってほしい。マカッサルから10時間もかけてやってきて、本当によかった。トラジャコーヒーはスラウェシ島の宝であり、ここまでプライドを持って仕事をしている姿は、スラウェシ人の輝きの代表と言えるだろう。秘境の地トラジャは、伝統も産業もマカッサルとは違い、また新たなインドネシアの顔を見られたのであった。



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