@トンコナン式のホテル



Aトンコナンの正面には、牛の頭を形どったものが飾られている

*連載12 「トンコナン建築〜タナトラジャ旅行記 前編 
                   
エッセイスト・ラフマン愛



 我が家のある港町マカッサルから車で10時間、田園風景広がる標高1000mの地タナトラジャ(以下トラジャ)へ旅行してきた。同じインドネシアなのにいろいろな不思議に出会った秘境の地トラジャ、今回と次回に渡って紹介していくことにしよう。
 
 マカッサルからトラジャまでの道のりはいたく険しいものだった。10時間も車移動しなければならないというだけでも疲れ果てそうだが、その道のなんとデコボコなこと。穴ぼこ道に水たまり。どのくらい深いのだろうと不安を抱えながら、なるべく段差がひどくないところをそろりそろりと進んでいく。深い穴にはまってしまって動けないトラックも見かけた。150kmほど穴ぼこ道を進み、やっと平坦な舗装道が続いてきたかと思えばくねくね山道さらに150km。いくつの山を上り下りしたのだろう。しかしトラジャへと近づくにつれ、のどかな棚田の風景に、普段鼻から入ってくる臭いとは違った清々しさを感じ、ここまでの苦が吹き飛ばされたようだった。インドネシアでは何度も見ている光景だが、何の機械も使わずに田植えから脱穀まですべて手作業の人々。広大などこまでも続くその棚田には、同じ米食アジア人のルーツを感じる。

 さて、トラジャで有名なものと言えばまず、トンコナン建築である。トンコナンとは高床式舟形家屋のことで、基礎は木、屋根は竹を使用しており、両端が反り上がっているのが特徴。正面には牛の頭を形どったものや牛の角、牛の歯形などが飾られている。米がたくさん採れる地で、主に穀倉として使われている。私も夫もトンコナンはすべて穀倉だと思っていたのだが、実際のものを見てびっくりした。ケテケス村というところで、一つだけ中に人が住んでいるものがあったからだ。ガイドや観光客が中に入っていっても、ごく普通にそこのおじいさんが昼寝をしていたのには本当に驚いた。別に人が入ってこようが気にしていないらしい。ちなみに内部は3畳ほどの部屋が3部屋あるが天井は低く、それはそれは簡素なもので、住居というよりも洞窟。とてもじゃないが私には無理である。穀倉・住居以外に、トンコナンをお墓にしているものもあった。正面に位牌がかけられていて、すぐにお墓だとわかる。トンコナン建築にこだわるトラジャ人の伝統継承や、その誇りが感じられる。トンコナンは観光客目当ての建築物ではなく、これからもこの地の人々に根付いていてほしいと思った。



Bケテケス村のトンコナン


 前述のようにトンコナンをお墓にしている人は、実はそう多くない。実際トラジャでは個々のお墓がない。土葬でも火葬でもなく、風葬であるからだ。この風葬のお墓も、トラジャの観光名所である。風葬などという言葉は聞き慣れないが、行って見てよくわかった。遺体が本当にそのまま置かれているのだろう。岩山の壁にそのまま棺桶や人骨が無造作にあり、恐れおののいて足がすくんでしまう。一応家族ごとに葬る場所や地域が決まっているらしいが、とにかくいろんな骨が散乱している。確かに珍しいとはいえ観光名所がお墓とは・・・。



C岩壁に取り付けられた棺桶


D岩のへこみ部分に散乱する人骨  


 トラジャではお葬式も観光の一つとして有名である。以前テレビで見た豪華で派手な葬儀は、たくさんの牛や豚を生け贄にし、立っている牛ののどを刀でスパーンと切っていた。イスラム式の横たえてやるやり方を見慣れているせいか、とてもかわいそうで、トラジャに行っても葬儀観光をしようという思いにはなれなかった。そのため今回は葬儀の観光を省略した。

 トラジャ旅行、終始身の毛がよだつとともに、秘境の文化というものをひしひしと感じるのである。インドネシアの多種多様な民族、まだまだ私の知らないことがたくさんあるようだ。

後編へ続く。


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