書店にある卒業試験問題集



*連載11 「卒業シーズン」 
                   
エッセイスト・ラフマン愛



 インドネシアでは今、卒業シーズンを迎えている。4つの試験を終えてやっと晴れて卒業できる。今、小学6年生は2つ目、中学3年生は4つ目の試験期間中で、卒業年の子をもつ家庭はさぞかしピリピリしていることだろう。
 卒業のための4つの試験とは、まず最初に各学校の学年末試験、その後全国統一試験、そして各学校の卒業認定試験、最後に行きたい公立中学校、もしくは公立高校の入試である。ちなみに私立校の入試はもっと早めに終わっている。全国統一試験の結果をもとに公立校は2校受験でき、たいていどちらかに入れる。2校とも不合格であっても入学金の交渉次第で入れるので、中学や高校で浪人生になることはまずない。ただ、日本人の私からすると中学校でもそんな試験があることにびっくりした。公立中学校でも学力別になっているということだ。
 この4つの中で最も重要視されているのが全国統一試験である。その試験の点数は卒業証書の裏側に書かれており、将来の就職試験にまで影響してくる大事なものである。それで最近ではこの試験のために、小学校3年生ごろからみんな塾に通い始める。昨今、学習熱が高まってきて塾もどんどん増えてきた。書店にもその試験のための問題集がたくさん売られるようになった。

 もちろんこの全国統一試験は小中だけでなく高校の卒業時にもあるのだが、それが今は問題となっている。この試験には最低点(だいたい60点〜75点という設定)というのがあって、それ以下では不合格となる。マカッサル市内のとある高校で、生徒の40%が不合格であったということが新聞に大きく載っていた。不合格の場合は再試をしてどうにか卒業できるようにはなるのだが、なぜそんなに多くの不合格者が出たのか。その理由として、普通科でも、工業高校でも盲聾学校でも同じ試験であることがあげられる。試験科目は一般的な国数英社理であるのだが、工業高校では社理に関してはほとんどせず、その専門技術習得の授業に成り代わっている。だから、工業高校の生徒らは、全国統一試験のために学校とは別で勉強しなければならない。もし再試も不合格であれば、大変なことになる。留年しなければならない。また、盲聾学校に通うような身体障害者は、そんな試験ではまるで切り捨てのような感がある。教育省は今、全国統一試験を廃止し、各学校の卒業認定試験を、日本で言うところの内申点として入試できるように考案中である。ただ、それはそれでまた新たな問題もある。生徒が教師に金品を渡し、答えを教えてもらったり、カンニングを見逃してもらうということも多く行われているからだ。実際、公立中学校の全国統一試験の試験監督は、以前はその学校の教師がしていたが、そういった不正が頻繁に行われるため、今では警察官や塾講師など、外部から呼んでくるようになった。不正はほとんど公立校であり、同じく全国統一試験を受ける私立校の生徒らがそこかしこで不平を漏らしている。子供らの教育熱が高まってきており、経済成長を遂げてきているインドネシア、足りないのは公務員である教育者なのは言うまでもない。本当に惜しい。公務員の不正がなければこの国はもっと成長できるのに。試験うんぬんよりも、教育省にはまず、善良な教育者育成に励んだほうがよいと思う。


卒業暴走の光景

 さて、卒業シーズンになると毎年見られる暴走光景がある。卒業暴走するのはとくに高校生なのだが、一連の試験が終わり卒業が決まったその日、制服にカラースプレーで落書きし、何十人、何百人もが一緒にバイクで町中を走り回るというもの。人々は道端に出てきて、暴走している子らに水風船を投げたりする。ちょっと派手な行為ではあるが、卒業できたことをアピールし、体で感じている。もちろんそんなことをしたら交通渋滞を招くのは必至だが、なんとなくこの日ぐらいは許してやろうという気持ちになる。私は将来の我が子らのことをいろいろ案じながら、今年もまた、町中で卒業暴走を眺めることとなるだろう。




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