授賞式2010新春
第6回銀華文学賞・第5回エッセイ賞・第5回現代詩賞





エッセイ賞選考委員の三神弘氏(左)と受賞者の多胡幹氏

 快晴に恵まれた1月31日(日曜日)、東京大田区民プラザにて2010年度「文芸思潮」授賞式および祝賀会が挙行されました。第5回エッセイ賞、第5回現代詩賞、第6回銀華文学賞の各受賞者、御家族、一般参加者など75名が、北海道から九州まで全国から集まりました。また、第2回現代詩人賞と昨年創設された第2回河林満賞も併せて授賞を執り行いました。
 定刻の午後2時、河林満氏の遺影が見守るなか、作家集団「塊」の八覚正大氏の司会で授賞式は幕を開けました。
 小沢美智恵氏の開会の言葉に続き、五十嵐勉「文芸思潮」編集長が挨拶に立ち、今回再度の受賞者が多かったことについて、再受賞するのは、以前よりもさらに大きなエネルギーを必要とするのでむずかしく、乗り越えようとするひたむきな情熱とたゆまぬ努力があってはじめて成し遂げられるものであると讃えました。
 まず、エッセイ賞の表彰が行われました。選考委員を代表して三神弘氏が、エッセイ賞の応募数が第1回の160篇から今回の700篇へと数倍に増えたことに触れて、選考する側の喜びを語りました。「作品はどこにあるのかと言えば、どこにあるわけではなく、自分の中にしかありません」と、今後の作品への期待をにじませながらの講評の言葉でした。
 続いて、当選「天からの闖入者」の多胡幹氏、「さがしもの」の金子みのり氏、「片目」の武藤蓑子氏がトロフィー、賞状、賞金をそれぞれ授与されました。
 優秀賞、奨励賞、入選、社会批評賞入選の方々の表彰が終わったところで、当選、優秀賞受賞者が「受賞の言葉」を述べました。多胡幹氏は「人を支えている心」について触れ「人の心に残るものが書きたい」と語り、また、金子みのり氏は作中で確執のみられた母親について話しました。「自分へは注いでくれなかった愛情を孫に注いでくれている」と述べて、会場の安堵を誘いました。昨年の優秀賞に続いて当選の武藤蓑子氏は「これを励みにしたい」と更なる創作意欲を燃やしていました。
 優秀賞の「自爆」木戸竜之介氏、「ある青年の死」藤田陽子氏、「『広島菜』によせて」安芸遥氏、「天国の姉へ」HANA氏、「ラマダン」益田勇気氏の各スピーチも体験に根ざした心打つ受賞の言葉でした。「サクラの木」の萩原ルイ子氏は、ちょうど授賞式の日がお父様の御命日ということで、一つの縁として法事からそのまま駆けつけてくれた思いを語ってくれました。
 休憩を挟み、現代詩人賞、現代詩賞の表彰です。五十嵐編集長がまず現代詩人賞について説明しました。上梓された詩集「時の彼方へ」の詩作品の優れた結晶性と叙情性を讃え、幼少の頃から苦学して詩作に取り組み、人間の時間の根源を探る美しい言葉の深さと、年齢とともに詩精神の輝きを増していく情熱と努力を激賞しました。
 続いて池田康選考委員が現代詩賞の講評を行い、当選である福地順一氏の詩の方言の力強さと、作品からにじみ出る悲しみを評価し、同じく当選の北埜ユリコ氏の作品について「私が世界全体をつかまえてやる」というような意気込みが感じられる、と賞讃しました。さらに、若い世代の応募が多い現代詩賞について「ダイ・ハード・ポエット」という考えを語り、30代を越えた方の詩作が盛んになる期待を表しました。
 当選の福地順一氏、北埜ユリコ氏が緊張した面持ちでずっしりしたトロフィーを受け取り、続いて優秀賞の中島真悠子氏が、それぞれ賞状と賞金を授与され、池田選考委員から重いメダルを首にかけられました。最年少で佳作となった一四歳の中学生の湯浅紫保里氏、高校生の猫式純也氏に対しては、会場から特に大きな拍手が湧き、二人をあたたかく包みました。
 受賞の言葉で、佐山広平氏は、自分は菓子屋の丁稚に出たり貧しく苦しい時代を生きてきたが、良い先生と友人に恵まれた、と刻苦してこられた過去を話し、これからもっと自分という存在を掘り下げた深い詩を書きたいと抱負を述べました。
 福地順一氏は、物事に熱中する自分に触れながら、応募に至る経緯と現在「歌謡詩」に挑戦していることを語りました。北埜ユリコ氏は、詩作を始めた高校時代の鬱屈した力とそれを乗り越える力が、最優秀賞に結実した感慨を述べました。
 甥の誕生のために作った詩で受賞した優秀賞の中島真悠子氏は、身近な肉親をよく見たことが自分をもよく見ることになったと、愛情を基にした新しい作品が受賞したことの喜びを語りました。
 最後に銀華文学賞です。大高雅博選考委員が出席者の作品の講評を述べました。
 楡木啓子氏の当選作「線路は続く」については、夫婦問題・嫁姑問題の根の深さを超えようとする姿勢の潔さを評価し、選考会で最高得点だったと讃えました。もう一方の当選作である藤原惠一氏の「光のケーン」は、あらすじや結末やテーマや技巧があまり関係ない不思議な作品で、読んでいるだけでよかったと、第6回を数えた銀華文学賞の収穫と評しました。
 河林満賞となった前岡光明氏の「白い哀しみ」については、作家集団「塊」の飯田章氏が講評を行いました。飯田氏は、幼い頃に母親を亡くされた河林氏の経歴にふれつつ、命の儚さに対する愛おしみが作品に流れているという共通点が河林賞にふさわしいと賞讃しました。
 楡木啓子氏は晴れやかな笑顔でトロフィーを選考委員から受け取り、お知り合いから届いた祝電に顔をほころばせました。
 河林満賞の前岡光明氏は、故河林満氏の夫人から直々に賞金とトロフィーを受け取り、感に堪えぬ面持ちでした。優秀賞の「幻臭」室町眞氏、「道標」井上梨白氏、「ワンス イン マイ ライフ」二宮英郷氏らもメダルを受け、その重みをあらためて首に感じていらっしゃいました。
 楡木啓子氏は受賞スピーチで、自分の書いたことが伝わるかどうか不安だったと当選の喜びを語りました。藤原惠一氏は、お金はかかって反響のない自費出版など、長く芽が出なかった創作活動について語り、静かな口調のなかに最優秀賞に当選した喜びを溢れさせていました。
 第2回での奨励賞に続いて河林満賞受賞の前岡光明氏は、一昨年の授賞式で木戸竜之介氏の言葉に触発されたことを述べ、感謝の意を示されました。
 優秀賞の方々のスピーチはさすがに重い体験を経、表現の年輪も重ねられてきた方々の、胸に染み入る豊かなお話で、授賞式の掉尾を見事に飾ってくださいました。最後に会場全体がひときわ盛り上がったところで、小沢美智恵氏が閉会の言葉を述べて授賞式は終了となりました。

 休憩を挟み、緊張も解け、華やいだ雰囲気の中で例年通り作家の小浜清志氏の司会で祝賀会が開かれました。まず全国同人雑誌振興会会長の森啓夫氏が壇上で、文芸思潮33号に掲載された小林和太氏(第5回銀華文学賞当選)の「原風景へ」を讃え、受賞後に良作を書きえたことを賞賛しました。さらに清松吾郎氏(第2回銀華文学賞優秀賞受賞)の祝辞の後、高橋惟文氏(第1回銀華文学賞優秀賞受賞)の乾杯で会食が始まりました。例年にも増した和やかな雰囲気は、出会ったばかりの人同士を文学の会話で弾ませました。しばらくの歓談のひとときのなかで新たな文芸の交流の花があちこちに咲き乱れます。
 歓談も落ち着いたところで各奨励賞の受賞者の方々にもお言葉をいただき、作品にまつわるエピソードなど披露していただきました。作家集団「塊」に新しく加わった都築隆広氏(文學界新人賞受賞)が上位入賞者のエッセイを丁寧に解説し、好評を博しました。
 トリは故河林満氏の友人でエッセイ賞奨励賞を受賞した画家の西島雅博氏です。自分の作品である「『在日』の友、抗議の焼身」について、友人を救えなかったことへの長年に渡る悔恨を語り、民族問題の存在を知ってもらいたいと呼びかけました。西島氏は、祝賀会にも関わらず重苦しい話をしたお詫びをしつつ参加者に呼びかけ、一同で万歳を大きく唱えて祝賀会終了となりました。
 この万歳のなかに、文芸を愛し、試練と苦闘に満ちた人生という時間を渡る一人一人の思いが合流し、そこからまた新たに歩み出し、深みを乗り越え創作へ繋げていくエネルギーを再確認しました。
 来年の授賞式での文学を縁にしての再会を胸に約しつつ会場を後にしました。
(レポート/里見風樹)