伝統を継承する創造の場 〜70年の歴史を刻む九州の伝統誌〜


九州文學

・年2冊発行
・A5判、300ページ前後
・価格800円

〒809・0028
福岡県中間市弥生一丁目一〇・二五波佐間方
TEL&FAX093・244・8501



●「九州文學」紹介

「九州文學」は現在第七期を季刊で発行継続している。
「九州文學」は第五期の途中で休刊し、約十一年間のブランク期間があったが、やがてかつての同人たちの呼びかけで佐賀県にて復刊し、やはり季刊で十三年間続いた。そしてその後、編集人の高齢にともなって福岡県へ里帰りし、第七期として引き継がれている。通巻でいうと五百二十七号(平成二十一年四月現在)ということになる。
「九州文學」が創刊したのは昭和十三年(一九三八)九月である。「九州芸術」「文学会議」「とらんしっと」「倭寇船」などといった文学グループと、すでに福岡県に存在していた「九州文學」などが紆余曲折を繰り返しながら合同して誕生したということになっている。だから実質的にはこの合同した第二期「九州文學」がいわば創刊ということになる。
 前述したようにブランク期間はあったものの、「九州文學」は創刊以来実に七十年の歴史を刻むことになる。この間、火野葦平、劉寒吉、岩下俊作、原田種夫、矢野朗、長谷健、小島直記、中村地平、北川晃二、宮崎康平、それに無名時代の森禮子などと数え上げればキリがないほど多くの人たちが活躍の舞台として「九州文學」に登場した。
 しかし、現在はそれらの先人たちの活躍を知る同人も少なくなった。語り草として耳にする程度で、まあ世代が違えばそれは当然のことかもしれない。
 現在、「九州文學」同人は福岡県を中心に本州は千葉県から九州は南端の鹿児島県まで百人近くが在籍している。年齢層も二十一歳から八十九歳と幅広いが、平均年齢になおすと七十歳近くになる。若い人が少しずつ入り始めたとは言え、まだまだ高齢者が圧倒的に多い。これは「九州文學」に限らず、どこの同人誌も同じような傾向にあるようだ。このことが今、特にどうのこうのと言うつもりではないが、いかにして若い層を取り組んでいくか、われわれ同人誌が発行を続けていく上においては欠かせない今後の大きな課題であると感じているのだ。
 近年、商業主義を目的とした文芸誌の新人賞公募などが乱立する中で、新たな作家を育て、世に送り出すという同人誌の役割は過去のものになったと言われている。昨年、そのパイプ役として存在していた「文學界同人雑誌評」も打ち切りになって、そういう役割は確かに終ったのかもしれない。しかし、そんなことばかりに明け暮れていた同人誌もあったかもしれないが、そんな同人誌ばかりだったとも言えない。
 地域の文化、表現の場として七十年の歴史と伝統を継承してきた私たちは、今後も良質の文学を目指し、「九州文學」を創造の場として次世代へと繋いでいくつもりである。(「九州文學」編集人・波佐間義之)
(「文芸思潮」29号掲載)


「良質」の作品を目指して

「九州文學」は昭和十三年生まれだ。火野葦平さんや岩下俊作さん、劉寒吉さん、長谷健さん、原田種夫さんといった人たちが築きあげてきた老舗である。すでにその先人たちはこの世にはいないが、「九州文學」は健在だ。
 しかし、近年の同人の高齢化、若者の参加の減少という傾向はわが「九州文學」においても例外ではなく、百人ほどいた同人数も一時は半数ほどにまで落ち込んで存続が危ぶまれた時期もあった。このまま立ち消えてしまったらどうしょう。先人たちの厳しい眼(まなこ)が天の上から針の雨のように降り注がれる。絶対に「九州文學」の灯を消してはならぬ。天の声は私たちの耳に痛いほど響き渡る。
 先も見えず、気力も喪失したまま惰性的に続刊していた第六期を断ち切って、第七期を立ち上げたのが平成二十年の春であった。新しく出発するにあたり、編集委員たちが福岡に集まって、とにかく「良質」の作品を目指すことを誓い合って意思を一つにした。
 その第一号に発表した編集委員でもある江口宣の「イエスよ涙をぬぐいたまえ」が「文學界」の下半期同人雑誌推薦作になり、幸先のよいスタートを切ることができた。これに弾みがつき、同人たちの創作意欲が増し、次々に話題作を発表するに至った。  
その後、「文學界」の同人雑誌評の打ち切りという残忍(?)な仕打ちにあったけれども、地方紙の「同人雑誌評」や「文芸思潮」「季刊文化」「三田文学」といった文芸誌の応援をいただいたことで、同人たちの創作意欲は衰えるところか、ますます盛んになったのである。
そうなると不思議なことで、どこからともなく若い人たちからの問い合わせがメールを通じて現れるようになった。これは樋脇由利子さんの「文芸同人誌案内」というホームページを通しての訪問である。「九州文學」もここで紹介されていた。同人になりたいがどうすればいいか、というのである。彼および彼女らはどこかの新人賞に応募し、何回も失敗した挙句、同人雑誌に発表の場を求めてやってくるのだろうと思っていたら、そんな人ばかりではなかった。その中の一人は、今の商業誌にあきたらず本屋さんで手にした同人雑誌を読んでいるうちに自分も書いてみたいと思ったのだという。そう言えばわが「九州文學」も近辺の本屋さんに置かせてもらっているのだが、どこの本屋さんでも一冊も売れなかったという号は一度もない。一つの本屋さんで最高二十八冊売れたこともある。これには私たちの方が驚いた。この現象をどう捉えたらいいのか、私たちはまだ捉えきれずにいるのだが、潮が満ちてきたことだけは確かだろう。
同人数もようやく百人近くにまで回復し、皆無だった二十代、三十代の同人が最近ではさらに増え続け、四十代までを含めると全同人の一割を超えるようになった。本誌に転載の、同人雑誌優秀作に選ばれた林由佳莉もその中の一人である。
「良質」の文学のこそ「九州文學」の目指すべく方向である。 
現在、第七期「九州文學」は九号(通巻五百三十号)を季刊で発行している。
(「九州文學」編集人・波佐間義之)
(「文芸思潮」35号掲載)




合評会風景