・年1回発行
・A5判、120ページ前後
・600円

〒285・0846
千葉県佐倉市上志津1763-20-209
043・461・4726








● カタツムリの如く遅々と、真剣に   発行人・遠野明子


 創刊は一九八七年。二十一年前になる。今年六月に出た26号が最新号だから、いかにも遅々とした発行である。
初めは三人の女が、互いにそれまでいた同人誌をやめて始めた、おそらく極小の同人雑誌であろう。以後、遠野を除く二人が抜けて、昔の文学仲間だった男性二人が仲間に加わった。一人は今も「槐」を支えるメインの書き手、乾夏生、もう一人は異形の文学に注視する評論の書き手、伊藤和也であった。伊藤の本名は中里敏郎。『大菩薩峠』で知られる中里介山の甥で、介山研究でも知られていた。子のない介山の財産を相続した伊藤はいわゆるお金持ちだが、風体を見れば先ずそうは見えない。一種の奇人であり貴人でもあった。この伊藤の紹介で詩人・丸山乃里子が入会。丸山は『詩人会議』新人賞を受けた後、同誌の賞の審査委員にもなったシュール系の優れた詩人である。この丸山の実妹である中里真知子が短歌の書き手として更に加わる。彼女は伊藤和也の妻でもある。天性の童女である真知子さんを加え、該博なる知識の持ち主、伊藤和也も健在だった頃の「槐」同人会は、まことにユニーク、かつ愉快であった。しかし、伊藤は八年前に突然亡くなってしまった。今、「槐」は詩人丸山の夫君、江時久(著書複数あり)、遠野の知己である木下伊津子を加えた五人で、相変らずカタツムリの如く遅き歩みで、しかし、真剣に発行を続けているのではある。
『文学界』の同人誌評が廃止となり、時々はそこで取り上げて貰うこともあり、大いなる励みであっただけに真に残念でならない。しかし、おそらくは商業文芸誌より歴史は古かろう同人誌は、商業文芸誌よりも初発の文学精神をより伝えて、今後も失せはしまいとカタツムリの遠野は考えている。「槐」のメンバーも六十代半ばから七十台にかかった人もいる。近代文学は終ったと言われているが、同人誌でこそ漱石、外を初発とする近代文学精神は、残り続けると信じて疑わない。
だが、「年一の発行ではねえ」と、心細げなる声も聞こえて来る。回数じゃない、中身だよ、と啖呵を切りたいが、その遠野自身が最新号では作品を降りた。上手く行かなかったからだ。首をすくめつつ、この小さな同人誌をせめて30号までは出し続けたい願いは、「シカと、真剣に」あるのである。亡き伊藤和也よ、トレードマークの黒メガネの奥から、見守っていて下さいな。(「文芸思潮」24号掲載)




2002年3月
「槐」20号合評会時
ゲスト=「三田文学」加藤宗哉氏
他に五十嵐勉氏、菊田均氏も出席