五五〇号から六〇〇号をめざして 〜名古屋市芸術奨励賞受賞〜



北斗

・月刊発行
・A5判、50ページ前後
・価格500円

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●「北斗」紹介

 同人雑誌「北斗」は平成十九年度名古屋市芸術奨励賞を受賞した。授賞式は二十年二月四日、メルパルク「瑞雲の間」において開催された。
 金屏風の上の看板には「平成十九年度名古屋市芸術賞・名古屋市民芸術祭賞授賞式」と書かれ、テーブル席でおよそ一五〇名の出席者。芸術賞は特賞二人、奨励賞三人と一団体であり、同人誌としては「北斗」が初めてのことである。松原名古屋市長が主催者として開会の挨拶をされたあと、表彰式に移った。プレゼンテーターも名古屋市長。
「北斗」については、
 ――木全圓壽さんら四人の発起人で、昭和二十四年九月創刊以来、一号も欠くことなく発行。全国でも屈指の同人誌で、文芸同人誌界を六十年近くリードし続けてきた功績は大きい。同人のメンバーは変われども、文芸にかける情熱意欲は脈々として受け継がれ、今後も更なる活躍が期待される文芸団体である――。と紹介された。
 また、芸術賞選考委員を代表して、委員長の斉藤光雄氏から、それぞれの講評があった。
「北斗」に対しては、――昭和二十四年に創設、厳しい状況にあっても、毎月欠かさず同人誌を出してきたことは全国的にも珍しい。同人誌を土壌として多くの人が育ってきた。そんな縁の下の力持ちを評価してあげてもいいのではないか。今更奨励賞は、という声もあったけれど、文芸の基本を支えるということで決まった――と、そのように私は聞いた。
 平成五年、初代主宰の木全圓壽が病に倒れ翌年亡くなってからは、二代目三代目と主宰が相次いで亡くなり、主要メンバーも病で次々と失なった。四代目主宰は竹中忍が就任した。そのころから、創刊のお一人でもある文芸評論家清水信氏が古巣に帰って来て下さった。一昨年中日文化賞を受賞、昨年は三重県県民功労者賞を受賞。「北斗」誌上に毎号執筆されている。
「北斗」は昨年九月に五五〇号に到達した。 
 この号を、名古屋市芸術奨励賞受賞記念号として、記念会を九月二十八日「ルブラ王山」において開催した。記念会は名古屋市と共催「中部ペンクラブ」「宇宙詩人」「三重文学協会」の協賛もあって、東京、大阪、金沢各地から駆けつけて下さり、百名を越す出席者で盛り上がった。第二部の祝賀会に先立って、二時から清水信氏の講演があり、演題は「物故同世代の小説作法」――読みたい文学は、自分たちの手で書く――北斗工房という印刷所を設け、資金を作って中古の印刷機と、合金活字七万個を買い揃え、自分たちで活字を拾って印刷をし同人雑誌を作った。フランス郊外の男子修道院で共同生活をしていた芸術家のアベイ派に対し、東海のアベイ派と称していた――ことなどを主軸に講演された。
 来賓には、名古屋市文化振興室長羽賀一夫、選考委員、斉藤光雄、伊豫田静弘、竹尾邦太郎、「中部ペンクラブ」会長三田村博史、「文学街」主宰森啓夫、「文芸思潮」編集長五十嵐勉の各氏をお迎えし、心温まるご祝詞を頂戴した。和やかな歓談風景は今でも深く印象に残っている。
 これを遡る、平成二十年五月三十一日、三重県鈴鹿市市民会館で「鈴鹿市民セミナー」が開かれた。鈴鹿発信――創造文化の先達からのメッセージ――と銘打って、清水信氏と、一昨年の文化勲章受章者、彫刻家中村晋也氏の講演会が催された。最初に清水氏が登壇。
「清水信と中村晋也でWシン、シンシン作家で││」とまず聴衆の関心を引き付けられる。
 ――文芸評論家は重箱に漆を塗る商売です。つまり出来を見て、磨きをかけて、重箱の隅を点検して世に出す商売。作品に漆を塗る、時には漆にかぶれる。毒気に当てられる危険な商売でもあるが、長生きをしたお蔭で、ようやく仕事が認められて、こういう機会を得ることができた。(因みに大正九年生まれ)
 文芸評論家には四本の柱が必要である。読解力が優れていること。喧嘩上手。無条件に作品がいいと褒める。未来を見つめる。そういう錯綜した神経をもたないといけない――とも。
 対談のとき、心に残るご自分の作品は、との質問に「あした書く作品」と即答。かるがもブラスアンサンブルの吹奏楽も心に染み入った。地味な催しにもかかわらず、入場者がおよそ八百人くらいだったろうか。中村晋也氏の有益な彫刻の話は別にして、メリハリがきいた独特の清水氏の話術には、いつも魅了される。
「講演会がこんなに面白いものとは知らなかった」との同行者の感想は、大方、清水氏に向けられたものである。ステージから退場される後姿は、背筋がしっかり伸び、老いを感じさせない。ほとんどが中高年の聴講者は、そこに希望の象徴を見たのであった。
「北斗」も六十年にならんとする長寿を成し遂げたお蔭で、名古屋市芸術奨励賞を受賞し、五五〇号記念会を開催することができた。
 これからも、六〇〇号を当面の目標とし歩み続けていく。(文責/編集委員・棚橋鏡代)
(「文芸思潮」29号掲載)




平成19年度名古屋市芸術奨励賞受賞祝賀会で。最前列中央、竹中忍、清水信、棚橋鏡代