井上光晴文学伝習所前橋分校から


飛行船

・年2冊発行
・A5判、120ページ前後
・価格800円

〒770-0842
徳島県徳島市通町2-12
竹内菊世
TEL&FAX088-655-2074



●「飛行船」紹介


 『飛行船』の目指すもの

『飛行船』は代表である竹内菊世の、文学へのあくなき憧憬から出発した。創刊号「編集後記」から抜粋する。
「『飛行船』。幼い頃、我家の上を悠々と、堂々と、慌てず急がず、音もなく横切り、だんだん遠く小さくなって行く不思議な乗物に、ずっと魅せられていた」
 竹内は40年来の「徳島作家」の同人であつた。同誌は1958(昭和33)年に田中富雄が創刊し、半世紀にわたって徳島の文芸界をリードし続けた同人誌である。
同人には芥川賞候補になつた岡田みゆき、直木賞候補の中川静子らがいたが、田中、中川が他界し、岡田も高齢のため書けなくなったとき、「これまでの栄光の輝きが失せぬ今、その幕を閉じよう」という提案がされ、2006年、58号を出して終刊した。しかし、文芸の灯をこれからも点し続けたいという思いは、それぞれの胸の中にあった。
 2007年の年明け、竹内菊世は新たな同人誌の創刊を旧知の仲間達に呼び掛けた。『飛行船』。その呼び名が集った者の共感を得た。まさに互いの夢を乗せて飛立つのに相応しい誌名であつた。創刊から参加したのは、元「徳島作家」同人の齋藤澄子、鮎合巧、松崎慧。歌人で「玲瓏」編集委員の松田一美、詩誌「逆光」主宰の宮田小夜子、「阿波の歴史を小説にする会」の藤本好浩、徳島ペンクラブの丁山俊彦の7名。竹内がこれはと見込んだ同士である。
『飛行船』は、新緑の美しい五月、創刊を果たした。
「ぱんと膨らんだ機体は、夢がいっぱい詰まっているようで、希望を託するにはうってつけのように思う。八人の夢を乗せて、悠々と優雅に飛んでほしい。声高に主張せずとも、しっかり存在感のある雑誌に育ってほしい」
 それが、私費を投じて同人誌を創刊した竹内の思いである。小説6編、評伝1編、エッセイ3編。かくして150頁の文芸誌が誕生した。巻頭作品は齋藤澄子の「風花」。他人の幸福を次々壊していく習性を持った女性の姿を通し、人間の心模様や生き方を描いている。竹内の「闇の入口」は老老介護の問題をテーマにしている。いずれも現代社会を反映した作品である。徳島県下の文学関係者からも、暖かい反響を得ることができた。
 第2号では、第1回大阪文学学校賞を受賞し、現在チューターを務めている四宮秀二氏の、「夕陽に赤い帆」を招待作品として掲載。宮田小夜子が長編評論「倉橋由美子『夢の浮橋』 −性と文学について−」を発表。以上の2編によって『飛行船』は、本格的な文芸誌の骨格が備わってきた。
 3号では、齋藤澄子が「水葬−永昇丸沈没する−」を発表。この小説はアメリカの原子力潜水艦と民間船の衝突事件を扱った問題作である。あり得ないことがあり得たこととして描かれている点が話題となり、各誌で取り上げられた。齋藤は4号で「謎つばき女波町」を、5号では「消罪の寺」と力作を発表し続けている。「文芸思潮」「文学街」の同人誌評でも絶賛され、新米同人誌『飛行船』の存在を示している。70歳代半ばの彼女が秘めた文学的才能と書くパワーに、同人たちは勇気と希望を与えられている。
 2008年発行の4号からは、大北恭宏が評論陣として参加。「吉本隆明論」の連載で、博学ぶりを披露している。また、松崎慧は「宮内鳩彦の誌友たち」と題して、戦後の徳島で、詩作に情熱を燃やしていた詩人たちの評伝を毎号連載し、関係者の好評を得ている。
 以上、『飛行船』は順調に号を重ね、5号発行を記念して、「第1回飛行船文学賞」を公募した。これは、県下の文学を志す者への呼び掛けであり、後進育成の目的でもある。幾編かの応募があり、文学賞に該当作はなかったものの、「麦わら帽子の父」の佳品を優秀作とし、作者高木純を表彰した。6号からは高木も同人として作品を発表している。
 竹内の文学への情熱に引っ張られ、協賛してきた会員は、多少の出入りを含め、現在10名。2010年5月には7号を発刊する。会費なし、会則なしのつましい会であるが、唯一「書く」ことが会員の資格である。書けなくなったり、発表を怠ったりすれば、退会である。地道に書き続け、発表し続ける会員によって『飛行船』は支えられている。
 平均年齢の高い『飛行船』であるが、健康に留意し、勉強を怠らず、文学的興味を磨き、世間の動きを察知する努力をして、これからも弛まず勤しんでいきたいもの。『徳島に飛行船あり』と、文学を志す若者が憧れる存在となり、中央に通用する同人が育ってくれれば嬉しい限りである。これが、代表竹内の目指すところであり、我々同人の向かっていく方向である。
(松崎慧)

(「文芸思潮」35号掲載)




写真=五号出版記念祝賀会
会員から大きな花束を贈られて喜ぶ竹内と、会員たち。前に座っているのが齋藤澄子。右端、作者の松崎。