渡部信順




祈りの部屋



 見えない雨。僕は静かな鼠色の空を見上げながら何か言葉にならないものをつぶやこうとする。空は黙して不動だ。僕は木々の間をくぐり抜けて一本の道を見つけだす。歩いていく。僕は未だ部屋を見つけられないでいる。
 やっと家路を取り戻したと思った頃に、部屋への入り口を見つける。見なれない景色のようで、いつもの僕の部屋。
 時計の針のようにゆっくりと扉を開ける。甘い血のような闇が覆いかぶさってくる。どうしてだろう? どうしてだろう? どうして僕はいつもこの部屋に帰ってきてしまうのだろう。空は正午で中天に太陽があるはずなのに、どうして僕の体も僕の周りも全て影、影、陰、陰なのだろう? そこに誰かがいる。闇の向こうに誰かがいる。誰かが静かに僕を見つめている。誰かが僕の呼吸を感じている。
 僕はそこに祈る者がいるのを感じる。優しくて、甘美で、残酷な暗さだ。友のように明るく、敵のように予測不能で、暴君のように立っている。
 なぜ、なぜなのだ なぜ僕はこの部屋に帰ってきてしまうんだ。教えてほしい。友よ、もしも僕が不実の中で、ただ言葉の中の正義を信じているだけなのならば教えてほしい。気づかせてほしい。僕は誰も傷つけたくない。誰も悲しませたくないんだ。なのになぜ、なぜ、なぜ言葉は影のように伸びて僕の心を騒がせるのだろう。
 動いていく光。君の髪を抱き締めた部屋。もうそこには存在しない面影。全て過ぎてしまった言い訳。未完のまま切り裂かれた一枚の絵の中に僕の部屋はあっても、音楽は震えることを忘れて、微かな畳の匂いの中にもう取り込まれてしまった。
 僕は名前を呼ぶ。おおい、おおい、僕の子どもよ、出てきておくれ。返事はただ空気の奥にこだまするだけで、僕のところまで届かない。いや、そもそも返事がきているのかさえ僕にはわからない。
 なぜいつもこうなってしまうんだろう。僕にはやり残された仕事があるのか。教えてほしい。僕の目の光に、まだ生きる使命は残っているのか。部屋の奥の地平線を物静かに歩く巡礼の人々が見える。テーブルの上のコーヒーはもう冷たくなってしまった。コーヒーの香りが漂う中、崇高な感情の高揚に涙を流す人々の姿が見える。泣いている、泣いているんだ。
 皆が祈っている。生きていくことを。皆が祈っている。生きる使命を。なのに僕はこの部屋でただ一人、影の中に取り残されてたった一つの言葉を探している。
 音楽は切り取られた空隙になって空を踊る。水平線に壁を感じて、つぶやきながら、静かに白い鳥が飛んでいく。大きく天井のはるか上を旋回しながら、雲の谷間に鳥は消える。何も残されず、何も語られず、時計の針だけが動いていく。
 僕は全てを剥ぎ取られ、部屋の中にいる。巡礼の人々の列を見つめながら呆然と立ち尽くす。そして祈る。祈ることしかできないんだ。けれど僕のこの祈りの中に、僕の言葉はまだ生きているはずだ。おお、祈りよ、空まで響いていってほしい。時間の限界を越えて、僕の限界を越えて、僕の使命の空までをも越えて、遠く区切られた夢の向こうまで響いていってほしい。
 届いてほしい思いがあるんだ。僕はこの部屋に取り残されながら、それでも誰かを求めているんだ。それが結果、悲しい自分を見つけることになっても、たとえ存在しない者になってしまっても構わない。
 巡礼の列が消える。僕の中で闇が取り残される。電灯のスイッチをつける。僕は部屋の中でつぶやく。ただいま、今、帰ったよ。本棚は静かに僕を見つめている。僕は不思議な睡魔に襲われる。僕は静かに眠る。新しい言葉をもう一度手にいれるために。新しい僕をもう一度取り戻すために。




病院の子どものクリスマス



サンタさん ここにはおとうさんもおかあさんもいないの
サンタさん なぜぼくはこんなところでねているの
まっしろなまっしろなびょういんの かべとかべにかこまれて
ぼくはしあわせがわからないよ わからないよ わからないよ
おかあさんにあいたいな おとうさんにあいたいな あいたいな あいたいな
ぼくはおちるてんてきをずっとみてるの ずっと ずっと
ぼくはやっぱりしゅじゅつをうけるのかな
サンタさん むこうのまどから よるのあかりがみえるよ きれいなあかりだよ
きれいなたくさんのあかりが みえるよ
ぼくのしらないようないろがたくさんあって きれいなんだ
あしたもこのあかりがみえるかな
ぼくはまっくらなびょういんでねむれないの ねむれないの
おかあさんにあいたいよ おとうさんにあいたいよ
ぼくは きのう ないたんだ たくさん たくさん ないたんだ
なんでないたのか わからないくらい ないたんだ
サンタさん まどのあかりはきれいだけど とおすぎるよ とどかないよ
ぼくはあるいちゃいけないんだ
あるいたら おいしゃさんにおこられるんだ
でもちかくにみえるのは みんなみんなしろいかべなの
てんじょうはこわくて もうみたくないんだ
サンタさん ぼくはきっとわるいこなんだね
サンタさん ぼくはきっとたくさんわるいことをしたんだね
おかあさんにあって おとうさんにあって あやまりたいよ
たくさんたくさん あやまりたいよ あやまりたいよ
もういちど いえにかえりたいよ サンタさん
いえにかえりたいよ サンタさん サンタさん サンタさん
ねるのがこわいよ サンタさん サンタさん サンタさん
おかあさんにあいたいよ サンタさん サンタさん サンタさん
でもどうやって おかあさんに あやまったらいいのかな
おしえて おしえて サンタさん




言葉の暴力



赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤
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