摩矢 悟





よるなくとり



夜なくとりのかなしさは
きくひとのない こいのささやき
うたいあげれば ひびけども
愛にくるまる ひののよを
ひとりかなしく うたうのは
こいしいひとと そえぬひと
夜なくとりのかなしさは
昼にみせない ふたごころ
なみだの谷を わたりがに
とりなくときの かなしみよ。

谷わたりゆく とりのねに
つげさとられて ゆくくもよ
このやまこえて さてどこに
うたいおどれば とりのよも
ひとのめもとに あるみすの
すがたあらわぬ すいかずら
くいつくときに すいつくよ
わたりがにゆえ どこへとも
つれてくだせと いうひとの。

何を名づけの おやとして
生きしうまれた ものなりや
月や星やと くりゆけど
みのたけほどの こいをして
さあさあよいよい こがしずみ
ひとふでとって しんぜましょ
おおや いまやと 知りぬとて
何をこまりの つまごいを
おしどりさえも けしょうして。

とりやとりや いずくやとぶや
わたりゆくなら あすからに
といてくだされ こころのうちを
どうぞ えがおにつつまれて
うれしいあすの くるように
ああ、またひのべの あすがきて
とりやとりや とんでゆく
わたしのよいひと どこへゆく
とりやとりや 声をおしむや。





すざくのひめ



すざくいんのおとどの、やんごとなきおふ
るまいにて、あらわのみめのすがたうるわし
きひめ、かたちよき、くちびるをひろやか
にすぼめども、ためいきのもれきこえたまえ
ば、うるわしきことばなど、かけたまいける
に、あらた、あたらげなるおんふるまいに、
しのびのよあやしきさまなるを、いとおそれ
おおきことなりければ、ほうしなどにことづ
けて、おんごきとうなどをいたしたまいしけ
れど、ひのくるようなあつきおもいにもやし
たてければ、おんまなこのくれないになりて、
しずくおとしけるを、これあれとぞ、のたま
いける。そのさまにて、あわやいくつかねの
なるにてありくるひ、ついがてにやりくりい
たしければ、ひのべするおもいせつなくあふ
れたまいて、いとどこいしきさま、みえたて
けるとや。いまわかぎとてはやしけるおとこ
そののち、しられけるとやありけるいかや。