増本大二郎







ビードロ(be "doro")



鉛の春に地殻をくすぐり
端っこのうたを宥め明かす

嗚呼、今日も腫れた名前は
掌の鉄道を渡る

心は亜種。
峠を越える
モルヒネの諦めを忍ばせて
果てまで繋ぐ 【アテ】

まるで神様の言いつけを
守らなかった確信犯
穴を只管に掘り続ける少年の家族と
赤い他人
尊さを失った命がゆりかごの代わりに
棺桶を揺らしている

心は亜種。
峠を越える
恐縮の自説を展開して
果てまで繋ぐ 【アテ】

月々火水木金々

卑屈は育ち 
育った卑屈が汗をかく
水に溶けやすい悲しみは


頬の北部を貫通する痛みに変わり
家族の疲れた唇を刃物のように尖らせる
泥になるまで週末の
決して与えられない少年の臓器と手足

嗚呼、今日も掌の鉄道の上
病的に腫れている少年の脹脛

 ― ドロマデ

複純なる魂の劣化
雨を纏い 傷は膿み
地図から消える海と空
歩く
心は亜種
振り向かせる生命は犠牲。
手首を貫通する緋色と
鉛の呼吸を記録して
歩く
心は亜種
振り向かせる生命は
人(義・生)
二十六万度の発熱が
擬態の神を燻らせる

古典は暮れ、
獣のうたを宥め明かす
門の中【音】


影は響く
つぶれたパァプルの集団
思議の罹患の高らかなる連鎖
リチウム塩剤の弾を込め
巨大な一日を鬱(うつ)

見る夢の終わらぬものならば
一日も又終わることのないのに
腫れた名前はき、き、今日も
掌の鉄道を渡る

愛に狂れ 生命に狂れ
刺繍の空想を去勢
弁別と愛他を規制
神の擬態はドコマデ
失うことに慣れてしまえる?

スラスティカの面影も
ぱらついたカタルシスも
処詮は空腹の色仕掛け
鉛の春に登録番号
【〇七〇六〇六】の太陽が降る

歩く
【アテ】宛ての焦燥
あざといリメイクの直列
アレキサイミアの型番
歪なる楕円を強調


汗は拗ね
大地を煩い
複純なる魂の浄化と解放

投下
泥になるまで
泥になるまで
月々火水木金々
神(仮)への挑戦を信号し
   
泥になるまで
泥になるまで只只管に
歩け。






SОS


祝福もなく 賞賛もなく
現実のぬかるみの上を
正にカリキュラムに沿って歩いている
背骨が曲がり 曲がり果てるまで
影を止める訳にはいかない

今朝、知らない人達が
中学生の女の子が
衰弱した老婆が
ストーカーにつきまとわれた女性が
新聞の中で僕に手を振っていた
手遅れのSОS SОS・・
心を痛めていないと言えば嘘になる
心を痛めていると言っても嘘になる?
不自然な、いやむしろ極めて
科学的なと言った方が良いのか
何事もなかったかのように
僕は朝食を摂りました
口辺部の欠けた半径九センチメートルの
お皿が正に棺桶になった
十一種の品目は見事に
お勤めを全うされたし されたし・・
人でなし ろくでなし・・

どんな慰めを待ち受けて
どんな合図を送信すればよい?
見渡す限り悲しみの独裁
孤立無援の老人達や


身に覚えのない不幸を所持している弱者
集会を嫌い生放送を厭い
24.8時間の穴倉に深く
根を生やしている人々
見ているふりをしながら
見ていないふりをしている僕一人
どうにかならないかと祈る気持ちと
どうにもならない苛立ち
平和の郊外に立って
ただただわき腹をおさえるばかり

曲がった豆と書いて豊かと読み、
貝を分けると書いて貧しいと読む
曲がった豆がそんなに欲しいのか?
貝を分けるのがそんなに嫌なのか?

僕の知らないところで
又一つ笑顔が消えてゆく
僕の知らないところで
又一つ命が消えてゆく
かつて黄金の国なんて呼ばれた
この国の未来はもう語る価値すら
なくなってしまっただろうか?

子供はいつも学力を問われ
大人はいつも甲斐性を問われ
お詫び申し上げます
お詫び申し上げます


てな具合にいつだって頭を下げている
馬鹿丁寧なのか丁寧馬鹿なのか
悪くもないのに左へ数歩下がっている
そんな彼らを前に
何をもって善処しますなどと
答えることができるのか?

赤い絨毯の上を悠然と
歩く者もあるだろう
スクラップの廃車の中で
関節を曲げっぱなしの者もあるだろう
それぞれの運、そして
能力の予算に合わせて
人はいや生命は巨大な回し車を漕いで
ゆかなくてはならないのか?

何もかもが手遅れでも
一手先が読めなくとも
一歩足くらいは勇んでやるさ
いや駄目だ それでは勇み足だ
それではフライングだ
結局、僕は手も足も出せないのか

覚悟と痛みの時差に耐えながら
一体どれだけカーソルを
点滅させてきたことだろう?
僕はこんな少しばかり広い
棺桶の中で年をとり過ぎたようだ。


祝福もなく 賞賛もなく
ただ現実のぬかるみの上を
正にカリキュラムに沿って歩いている
背骨が曲がり 曲がり果てるまで
何かの為に影を止める訳にはいかない

ほら送信エラーのSОSが
今もすぐ傍で垂れ流されている






キミガヨ


思い出の少女が色褪せた褐色を嫌う
僕の心を左右するキミはいつも
鉄の塊に左右されていたね 
繋がれていなければ
管理されていなければ
原型をなくしてしまいそうなの
電波に縋りつくように少女はやがて
髪の色や唇の色を変えて
国籍を放棄しました
火薬を塗ったようにチカチカする
赤色ランプの向こう側
極彩色の少女が舌を出している

夢の具の乱獲に遭い
終着を迎える、僕一人
生まれた故郷は真昼なのに寒く
意思を持たない連続が
僕から民族を剥ぎ取りました
ツゥ フク ファッファ
まだ息を維持、とりあえずお息を維持
これから始まる声明はどうして
左利きばかりに偏るんだろう 
命の派遣を失って
茨のカードに手を伸ばす
剥き出しの少年は繋がれることに
結ばれることに無邪気な位に臆病で
涙を割った大きい方と
おまんじゅうを


おばあちゃんが切れる前に
交換してしまったのです

心はないている
指先こそ折り返し地点、
血液が再び核に注がれる
どうぞこの心へ
火薬を積んで下さい
偽らざるの発展に少年は
老人と猫とを掘ったのに
空がご褒美にくれたのは
雨と無知だけなのでした
世界の崩壊は既に始まっていて
少なくとも僕の世界はもう畢ります
少女とともにあり
少女とともに消滅する0.3世紀
左脳の電卓は真昼に壊れてしまったけれど
唇が忘ることのない君の唇
それは感触を伴う幻か
僕は溺死を選択した鴎のように
深層を目指すのでした
均衡と不均衡とを一身に纏い
少女は美しい糸のような
髪の毛をふわりと僕の視界に広げた
神様に愛された目鼻立ち
悪魔に魅入られてしまった情感
やがて差別に与するようになった
少女の姿を捕まえる


キミを飲み込んでしまった悪魔は
僕の中にもいて、
そいつは次の物語に既に
転移している。
鉄の要塞に繋がれて
モノクロームの君が猥らに舌を出す
煙を上手に吐き出す悪魔はもう
僕の知っている少女ではありません
好き嫌いの激しい面皰の悪魔はもう
僕の知っている少女ではありません
ツゥ フク ファッファッ
隣の子らの息継ぎだ
きっと僕より大きくなれな
僕の期待はもう育たないけど
目隠しが解けたんだから
文句は言うまい聞きもしまい
例えばこの思念が夜を渡れなくとも
誰も僕をみとってくれなくとも
一匹ここまで来たものな
ガランの伽藍に目を遣って
手首がそっと
天に昇りました