梢 由沙






雨を宥めて


花冷えの今日は
雨がじとじと降り続く
表通りに
時折り 傘をさした人が通るぐらいで
街全体がしんとしている
真向かいにある駐車場の車も
ひっそりとしている
部屋の中にも
うっとうしい空気が流れてくる
時計の刻む音が
やけに響いてくる
猫たちは
晴れ間の見えない空に
あきらめムードで眠りこけている

私は
明日こそは
晴れ空になってほしいと
願いながら
折り紙でくす玉を折り続けている
覚えたばかりのくす玉は
飾り折りつけて とても華やか
今日の空とは
対照的な明るさで
どんより空を吹き飛ばしてくれる

先人の方々の
繊細な伝承折り、色づかいは
まるで虹の世界から
訪れてきたかのように
テーブルの上で
コンパクトに晴れやかになる
これこそ 雨の日の醍醐味
くす玉折りの本は かけがえのない本だ

たとえ 今晩中
じとじとと降り続いても
私はくす玉折りに
浸っていられるだろう
色彩やかな
夢幻のようなくす玉と
対話しながら
降り続く雨を宥めて行くのだ

夜明けには
東の空に
七色の大きな虹が現われていることを
思い浮かべて……

じとじと、じとじとと
雨はダークな音を
いつまでも立てている









やわらかな
春の陽ざしが
地面いっぱいに 降りそそいで
みずきの花がいっせいに
純白に咲きほころび
ふぐりの花は青い星のように
可憐に咲いて
寒さで押しやられていた心が
ふんわり溶けてくる
自転車をこぐ足も
浮き浮きと軽やかになってくる
林の遊歩道を
青いジャージの中学生達が
走ってトレーニングをしている
訪れて来た
春のぬくもりを手でしっかりと
握りしめて
若い呼吸は エネルギーに満ちている
穏やかな風が
木製の長椅子の上を通り過ぎる

今、私は
再びめぐり逢えた春に
感謝をこめている