光田 惠   

 

 

手紙



手紙が 真っ赤なポストへ投函された

赤い自動車がやってきて 定刻どおりに袋をかついでいった

その手紙は 遠い路を大型トラックに積まれて 局舎に到着した



ブルーの制服を身に纏った まだ若い兄さんが 赤いバイクを走らせている

毎日走り慣れた路を ぐるぐると走っている

片手には 太い手紙の束を器用に持って その彼は手紙を配達している



その兄さんは フト考える

(この手紙は 誰からだろう?)

幸せな手紙を配達することもある

良くない手紙を配達しなければならないこともある

手紙は 無事に先方へ届いたようだ



制服から 着こなしたカジュアルな服装に着替えた彼は歩いていた

ウォークマンを聞いていて 今日も無事一日仕事が終わった安堵感と

幾度となく辞めようと思い悩んだこの仕事がまがりなりにも十年間続いている

自分の頑張りを その長く辛い十年を

振り返って 涙がとめどもなく溢れ出てきた

そうして心の底から こんな感情が湧き起こった



――この仕事を 私は誇りに思っている

  十年間 この仕事を続けてきて

  今 始めて心底 そう思えた――





特送(特別送達)



そのマンションの一室へ

特送が届きだしてから

数か月が過ぎているけれども

いまだに転居する

気配は伺えない

いつも通りに奥さんは

特送へ署名される

淡々と……



始まりは

サラ金からのハガキだったか

競馬の予想速報だったか

記憶はあいまいである

建築関係の仕事をされている

亭主のささやかな

息抜きが

こんな重大なことになろうとは

本人はもとより

家族の誰にも分からなかっただろう



家族の中で

たったひとりの犯した過ちが

一家離散を招くことの怖さを

感じた



今日もその家へ

裁判所からの特送が到着して

奥さんはいつも通りに

書類にサインされた

私はその奥さんの「覚悟」を

感じ取ってもいた





金と女と



金が生活に安心感を与え

ゆとりが心のゆとりへと繋がる

あるいは金が人の人生を狂わせ

暇が大人の余暇をいびつな方向へと導くこともある

異性愛すら金で買えてしまう世の中

女を追いかけて追い求めては

金は露と消える

金では買えないものがあるとすれば

家族愛 兄弟愛 分かり合えた他者との信頼関係

異性愛ですら金で買えてしまうと謂ったが

それでも信じている

――真の愛は金では買えない

  純粋な心の交わりであると

そうして私に懐いてくれる

女の子のことを大切にしたいと





手紙・2



長い年間に渡って 諸先輩が

築いてこられた信頼のおかげで 今では

たびたび映画のワンシーンに登場するほどに

全国の町 街を疾走する風景の一部として

溶け込んでいる 郵便屋の赤バイク



一か月の間に突然二通の手紙が届いた

職場の元上司と文芸サークルの女性からだ

それ以来ふたりとは

良好な交友関係が始まった



日々配達する手紙は

その手触りだけで内容物が分かる

もっとも嫌悪するのが 金貸しからの督促状

や 一方的なダイレクトメール

たった一通の手紙で家が吹っ飛ぶ

力を秘めた悪意の手紙



手紙とはケータイに負けないくらいの効力をもつ

八十円という金額では買えない

人と人を繋ぐこころの伝達屋



――それが私の仕事だ