桐山健一





小さな喫茶店



ケヤキの下に蔦のからまる茶房

「田園」のながれる五月の風

甘酸っぱい体臭にコーヒーの香り

ときめく希望や夢について語った

小さな喫茶店



生きることに疲れ

なえた純粋な魂をなぐさめるため

よりどころのない旅に出る



まどろみから覚めると

秋の香りのする風に

茜色の空





寂れた駅で降りる

モーニングサービスのおにぎりとコーヒー

淋しい心につぶやく哀愁の香り

緑の屋根の小さな喫茶店



エジンバラ城の片隅

ブルーマウンテンの円やかな味

たどたどしい英語で

故郷のキラメキについて語った

赤レンガの小さな喫茶店





彩雲は虹の季節をつれて

想い出の色に染まり

小さな喫茶店を彩る







星屑の希望



凛として神々しい光

一陣の風がプラタナスの葉を揺する

月明りをなぞっている僕の心に

時を刻む足音がこだます



虹の光は

波長の長い光をなげかけ

いのちを明るい月にかえそうと

大地を照らす



影法師はささやく

大人になったらやってみようと思った

果てしない創造の入り口も

今は閉ざされている



空にきらめく星は

追憶のかなたを流転して

散り散りになった

よりどころのない希望を蘇らせる



純粋ゆえ傷ついた青春の日々

明るい星に届こうと精一杯背伸びした

未完成の星屑の希望







クマタカ



「鈴鹿山脈で弱っている

 クマタカを保護したが死んだ

 体内から高濃度のPCBが検出された」



血を流したような朱に染まり

つぶやくような夕陽に消える

荘厳な峰々



傷ついた魂が埋もれている

疑うことをしない森のいのちたち

月明りに透視されて眠りにつく



人は孤独で傷ついても

素直な季節を見つめ

心を癒していきることができる



人は軽はずみな富を得て

自然を破壊し

山や森が育んだいのちを駆逐した



月明りにたなびく絹雲の下

闇の底に沈む連峰に

おろかな人間の墓標が映る