剣月 亨




野帳



泥濘 倒木

寝惚けカメムシ

笹薮 踊り蝿

朝露が魂の芯に落ちたかのような

声は ウグイス

破れ靴 破れ靴



新緑に沈む 茅葺き屋根

押し寄せてくる 木の葉のざわめき

身構えて 待つ親子

波飛沫のように 降り懸かってはこない

はず



知り合いのようでいてそうでもない

早朝ウォーカーたちが交わす挨拶

陽光の振る舞いに似て



モンシロチョウ ふたり

野帳 ペンだこ 鉛筆の青い影 破れ靴の

と云えず

三行 書く

うちに 横を過ぎた白い帽子が

坂道の小さな粒だ

動く字 大空から 観られている

破れ靴 音がする これも字



左へ折れる



道は深い 浅く見えても