氷室 晶




彼岸の雪は



闇の空から

音もなく

卯月の雪が 降り積もる

眠り覚めぬ 街に村に

かさ高く

さらに さらに



彼岸の空から

気配なく

浄めの雪は 降り急ぎ

もの言わぬ 君の胸に魂に

奥のおく

りんと りんと



憂いは去ったか

恐れは

恨みは払ってもらえたろうか

病に伏す度

生命には限りがあるのと

微笑んだ君だから

一滴の未練も迷いも 残させない――

たわんだ時空の狭間から

みそぎの雪は 降り急ぎ



魂は

雪水の雫で紡いだ袷を羽織り

母なる宇宙(そら)へ還るんだ



彼岸の雪は 降りしきり

しんと しんと 降りしきり