藍澤祐樹





大きく小さな世界


始まりも 終わりでさえも
予見することできない
激しく 妖しく 忙しく 躍動をする 仮初めの世界

争いも 和解ですらも
終わること無い 不完全な世界

絢爛豪華な 世界の美が
辛うじて 僅かに 憂鬱を紛らわす
深く 深く 沈澱した 銃殺されたい
遣る瀬無い世界

何時かは 永遠の虚無に 呑まれることを
誤魔化し続ける 悲しみの世界

できた瞬間から 今の 今まで
たった一つの生命すらも
存在することが 適わなかった
不思議な 不思議な 謎の世界

この広大な大地で
破れ靴を曳きずりながら
宛ても無く 歩いていると
ばりばりと 人骨の
割れる 音が する
何処を どう 歩いても
消えることの 無い
不快な音
此処でも 人は 死んだ
彼所でも 人は 死んだ
あの山では撲殺体が投げ棄てられた
あの川では胎児が放り込まれた
歩くたび 足を踏み出すたび
人骨の割れる音が する
死者の呻く声が する
もう幾体の 人骨を
僕は 踏み付けただろうか

死体に群がった あの蛆どもは
成長し 蠅となり 卵を産みつけ
今も 死体に群がっているのだろうか

進取に怯えた 糞絵描き共は
今も 人間を呪い 街の片隅で
愚かな人々を 騙している

才能の無い へぼ演奏家達は
挫折した心を 隠し通し 欺瞞の笑みを浮かべ
未来の天才を 育てている

売れない 稚拙な 三文小説家は
今日も 駄文で 紙を汚し
肥大した 自意識の地獄で 喘ぎながら
喚きまわり 文壇政治に勤しみ
そして やがて 忘れられる

奴等は 何処へ 消えたのだろうか
大きな 大きな 敗北感を
小さな 小さな 体躯に しまい込み
過去を忘れた 振りをして
げらげら げらげら 嗤っている
この世の総てを 諦めながら
面に出さずに 嗤っている
精神の自慰に 耽っている
その呪いの大きさが
その諦念の悔しさが
その嫉妬の禍禍しさが
その粉れ当たりの残酷さが
微温い風となって
僕の廻りを
通り抜ける

僕は
僕は
愉快で
愉快で
堪らない





未来


ダビデの星と
茨の十字架が交わるとき
月の民は反撃を開始する

摩伽陀国の末裔達は
戸惑いを隠せず

絶対の主も
無数の神々も
永遠の真理も
いまだ 裁きを 起こさぬ

歴史は終わらず
未開の地は失せ
同じ世界を争い 血を 流す

ただ 科学という
神の信者達のみが
宙へ 宙へ と旅立つ
内へ 内へ と探索する

人類は また新しき
神を見出すのか
真理を発見するのか

神を見つけるのか
神々を見つけるのか
天主を見つけるのか
生命を見つけるのか

雨は 上がるだろう
しかし まだ暗い
また 強く降り出すかもしれない
いや豪雨になるかもしれない
雷は落ち 大地は裂けるかもしれない

だが 俺達は 虫けらの様に生きていくのか
怯えて 震えて 生きていくのか
誰かを 何かを 神を 神々を
理不尽に怨んで生きていくのか

しかし
いかなる時でも 生きていく術はある
いかなる場所でも 生きていく術はある
残虐な拷問の中にも 魂は守ることはできる
体は縛れても
心までは縛れまい
胸を張り 地に足つけて
生きていくことはできる

俺は いかなる嵐の中をも 進む
いや 嵐の中だからこそ進む
何を犠牲にしても
いかなる罪悪を犯してでも
たとえ破滅の道であってたとしても
その先に宝石の様な未来があるかもしれないから
その道程こそが輝ける宝石かもしれないから





神の声


我は愛の神
永遠に留まる 恋と愛の矢を
人々の心の臓に放つ
決して 人に恋する心を忘れぬように

我は希望の神
時代に応じた望みを 人間の脳裏に浮かべる
浅ましき信者どもが
絶望して 死に絶えないように

我は嫉妬の神
後悔で創られた 妬みの槍を投げる
愛しい想いを忘れた
不埒な人間達の 肺腑を抉ってやるために

我は智の神
人々の心の奥底に
疑問の芽を生やす
また猿の様に退化させないために

我は雨土の神
天候を自由に操り
大地を揺るがし
災害、豊穣、不作などをもたらす
人間に祈りを捧げさせるために

我は寛恕の神
打ちのめされた人の心に
優しい風を吹かす
揺れる心をとろかすために

我は贖罪の神
極悪で浮かばれないと
罵られた悪人達に柔き
憐れみを投げる
罪人達にも安らぎを与えるために

我は堕落の神
全ての生命に怠惰の魔法をかける
世界の全てが勤勉で造られてはいないと
悟らせるために

我は不信の神
神を信じる者に
氷雨の様な悲しみを降らせる
祈り、信じるだけでは
神に想いが届かぬことを
思い知らせるために

我は幻の神
自然を超えた行いを捏造する
あらゆる奇跡や奇術を混ぜ合わせ
混乱を起こさせるために

我は神々の神
私は神々には干渉をしない
様々な神が蠢いており
それを鑑賞しながら
歓笑するだけで充分だからだ







あいざわ ゆうき
学習院大学卒