パソコン世情・・・・・・・・・・・・・・・・・・潮田三和子



 パソコンを買いかえた。
 以前のものはwindows98なので、10年ぶりの買い替えとなる。
 次々と便利な機能を持つパソコンが出るこのご時世に、移り気な私としては10年も同じ機種とよく付き合ったものだと我ながら感心している。
 友人とのメールや簡単な情報検索に使う程度なので、特に不自由はなかったし……。
 と、言うのは真っ赤なウソで、windows98でさえ使いこなせない私にとって,複雑すぎる機能満載の新機種には手も足も出なかったというのが真相。
 しかし古いパソコンは立ち上げや検索にやたら時間がかかった。
 まず、スイッチをいれ、お茶の用意をする。カップ片手にパソコンの前に座るとちょうど画面が現れるという超スローテンポな代物だった。
 ならばと、高速の光回線「Bフレッツ」を導入してみるがほとんど効果がなく、却ってイライラする始末。
「速くなるときいて契約したのに、相変わらずおそい!」
 NTTにクレームをいうと、
「パソコンが古いんじゃないですか?いつ頃のものですか?」
 逆に機種の古さを指摘され、スゴスゴ引き下がらなければならないはめに……。
 それでも、私のパソコンは貴重な情報源として健気に頑張ってくれていた。
 そのパソコンが機械の寿命を知らせるがごとく、画面の文字が日を追うごとに薄くなっていった。
 最初は映りの悪いテレビよろしく叩いたり、ゆすったりしながら気まぐれに表れる文字を必死に追っていたのだが、とうとうある日、まったく映らなくなった。
「うん」とも「すん」とも言わないパソコンを前に、ついに新しいものを購入すべく決心をする。時はまさに6月、ボーナスの月である。
 まずは偵察を!と隣町にある大手家電量販店に出向き製品をチェックすることにした。
 2Fフロアの半分をズラーッと占める情報機器に、まず圧倒される。
 熱心にパソコンを触っている若者に混じって、いかにも詳しいふりを装いながら陳列されているコンピューターの前を歩くが、違いがさっぱりわからない。
 わかるのは値段と色だけで、表示されている文字は殆ど意味不明。
「初めてお目にかかります」と、思わずお辞儀をしたくなる。
 誰かに説明を聞かなきゃ、できれば格好いい人がいいな!とキョロキョロあたりを見回していると、
「どういったものをお探しですか?」
 店員がスーッとよってくる。
(わッ、ハンサム!)
「パソコンが古くなったので、買いかえようと思って」
と、未経験者でないことをさりげなくアピールする。
 さりとて、高いものを勧められても困るので、
「仕事で使うわけでもないので、フツーゥの主婦が使う程度のものを探している
 ネット歴バリバリの主婦が聞くと憤慨しそうな発言をしてしまう。
 店員も心得たもので、恥をかかせない様に最低価格でもなく、後ずさりするような高機能高価格でもない、お手頃価格のパソコンを
「これなんか人気商品です」と、指さす。
 人気商品という言葉にめっぽう弱い私は、なんとなく心が動く。
「操作は簡単ですか?」
 値段の次の関心事に移る。
「ええ、簡単ですよ。これはこうで……」
 片手でキーを軽くポンポンと叩き、マウスをカチャカチャとクリックしながら説明してくれる。
「よう分からんな〜」
と、思いながらもフンフンと頷いておく。
 とにかく、お手頃価格と人気商品という言葉に気持ちはドンドン傾いていく。
 現在使用中のプリンターも型が古く、最新のコンピューターとは接続できないということが分かり、プリンター売り場まで案内してもらうことになる。
 プリンター購入は想定外の出費である。
(プリンターよ、お前もか!)
 まず、値段をみる。
「今日は特別価格で提供させていただいていますが、後日値段の変更があるかも知れませんのでご了承ください
 ということは、今日がお買い得日ってわけ? 気がつくと右手にしっかりクレジットカードを握りしめレジに並んでいた。
 こういうときの行動は、我ながら感心するほど素早い。
 一代目のときは、体力、気力もありマニュアルと首っ引きでセッティングを行ったのだが、今は体力、気力に加え視力も弱ってきている。
 解読不可能な説明書を思い出しただけでもめまいがするので、精神安定を第一に考え設定もついでに頼む。
(またまた、予定外の出費!)
 何となく分かったような、分からないような、でも確実に来月には請求書がくることだけが分かった私は、一つ大仕事を成し遂げた満足感で家路についた。
 こうして半年たつが、我が家の2代目パソコンも1代目同様、メールと簡単な情報検索だけに使われている。
 これでは宝の持ち腐れ、初代パソコンと同じ運命を辿ると、マニュアル本を買い、マスターしようと試みるが、時間ばかりが過ぎてなかなか頭に入らない。
 文明の申し子のようなパソコンを前に、使いこなせないわが身の不甲斐なさを嘆く日々が続いた。
 そんな時、ある家庭用ゲーム機の生みの親ともいえる人物の言葉を引用した新聞のコラムが、目に留った。
「なくても生きていける商品やサービスで、どうやって収益をあげるのか。そのためには開発に入念に取り組むべし」と。
 目からうろこが落ちるとは、まさにこのこと。そうか、私のパソコンには、収益をあげるために開発に開発を重ねた、なくてもいい機能が満載なのだ。
 そう都合のよいように解釈し、ようやく劣等感から解放された。
 パソコンのインストラクターをしている友人に言わせると、日常生活で使いこなせるのは機能の3割ぐらいらしい。
 では、私のようなパソコン音痴のおばさんが、複雑な機能満載のパソコンを購入する時の決め手は一体何なのか?
 色、形、お値段、それともハンサムな店員さん? ちょっと知りたいところである。

(2010)