アンビリーバブル・・・・・・・・・・・・・・・・・・宿輪芳泰

 

 

2007年、私は駐車場の警備をしていました。人間だもの、プロだって時には失敗もする。プロがやらかした、少し笑える、思わず「信じられない」と叫びたくなる事件に遭遇しました。

その商業施設は駐車場の入口が3ヵ所、出口が2ヵ所ありました。時間帯によっては満車対応で、空車待ちに何十台と車列ができ、出庫体制時は交通渋滞になります。できる事ならすべて入庫させたいのですが、駐車場には収容台数というのがあって、それを越えて入庫させるわけにはいきません。タイミング次第で上手く入庫できる車両もあれば、そうでない車両もあり、お客様には大変申し訳なく思っています。

その日は夜の9時過ぎ、出庫車両が多く、人と車でパニックです。隊員達はお客様の車両を駐車場から公道に出す為に忙しく働いていました。私も料金所が3台並ぶ出口のほうでドタバタやっていました。状況によっては立体駐車場の出庫はここだけでは捌けないので、場内の係員は南側から西出口の方へと車を回す事があります。車は大名行列のごとくつながっています。毎度の事で私には珍しくはないのですが。

その日、同僚のM隊員は南入口に立硝していました。M隊員は初めて見た光景で慌てたようです。大変だと勘違いして、無線機で隊長に必要のない報告をしました。

「車がたくさん、西出口に向かってきます!」

「出口から車が出るのは当り前だろ!」

お騒がせのM隊員だが、本人はただ事ではないと思ったのだから仕方ありません。単純明解、知らなかっただけの事。駐車場出口から車が出る事じゃないですよ。場内の係員が出庫車両を南側から西出口に回していた事です。しかし、トラブルメーカーM隊員と、多忙で怒っていた隊長とのやりとりを無線で傍受して、密かに苦笑したのは私だけではないはずだ。

 

同年の春、別の隊員でも面白いエピソードがありました。晴れた朝、街中をウォークするには良い天気。先発隊は数人上番していました。

私達3人はワゴン車に乗って出発。連日の出勤で、やや仕事疲れはありました。運転手のT隊員も眠そうです。会社を出て角を曲がり、すぐに車を止めた。T隊員は無言で車を降り、後方へ歩いて行く。自動販売機で何かを買っている様子。タバコだな、私はそう思いました。

T隊員は運転席に戻り、車をスタート、と思いきや、3メートルと進まず車を止めた。ドアを開け、再び自動販売機へ歩いて行く。私ともう一人の隊員は目を合わせた。一体、何があったんだ?

戻って来たT隊員の片手にはタバコが見えた。「どうかしたのか?」と尋ねると、何と! お釣りは取ったが、タバコを忘れたとか。反対だろ! 普通は商品を取って、お釣りを忘れるんじゃないのか? タバコを買いに行って、そのタバコを取り忘れるなんて。

サルも木から落ちる。喫煙家の達人でも、そんなポカをするんだ。よほどお疲れだったのね。T隊員に、うっかり忘れ物の横綱賞を授与しよう。

 

仕事の休みの日、私は仕事に必要な黒色の革靴を買いに行きました。最近オープンした靴屋でショッピング、いくつか見て回り、手頃なのに目を付けた。私は靴を手に取り、値踏みしていると、案の定男性の店員がやって来た。これは思惑通りである。

靴を履いてみた。少し小さい感じがする。私は一つ上のサイズを要望、店員は新しい箱から靴を取り出した。右側を履いて良し、念の為、もう片方も履いてみる。なかなかいい感じだ。

「これにしようか」

店員はその言葉を待ってましたと言わんばかりに、出していた2足分の靴を箱に戻した。そして、靴の入った箱をレジに持って行く。レジには女性の店員がいて、私は支払いを済ませて店を出ました。

家に帰る途中、私は公園のベンチに座り、今買ったばかりの革靴を箱から取り出した。両方履いて動いてみる。何か違和感がある。オニューの靴を脱いで、靴の中を見たが何も詰まっていない。頭を傾げてサイズを見た。我が目を疑う。まさか? もう一度見る。左と右のサイズが違ってる? アンビリーバブル!! (信じられない。常識では有りえない出来事、プロ野球的に言えば、エラー・珍プレーを意味する)

私は平静を装い、脳細胞は激しく原因を追求した。あらゆるパターンを考え、答えを導き出した。男性の店員が靴を箱に入れる時、間違えたのだ。何て事をしてくれるんだ。そう言えば、あの店員靴を箱に入れる動作、あまりスムーズではなかった。

しかし、レジの人も箱の表示と、現物のサイズが違うのに気づかないのか。……怒りを抑えて、少し反省。私自身も確認を怠ったのは否めない。私はボヤキながら、渋渋と店に戻り、新品の革靴に取替えて貰いました。

 

プロといえども人の子だ。時にはポカもやらかすさ。「プロフェッショナル」という言葉には憧れるけど、簡単に百点満点が取れる程、世の中そんなに甘くはない。零点取ったら許されないけど、(昔聴いた歌じゃないが)私的には65点でオーケーだ、なんて言うと社長様に怒られるかな。

物事には順序というのがあって、新人がいて、中堅がいて、ベテランですから。アマチュアやシロウトなら失敗してもいいという訳じゃないが、そんなにムキにならないでポジティブに行こうぜ。と自問自答しながら、私は渋渋と店に戻り、新品の革靴に取替えて貰いました。人生は厳しい。アンビリーバブルな三連発の珍事件でした。

新社会人諸君、失敗を恐れるな! 目の前の可能性の扉を開いて、見えないハチマキをしてレッツチャレンジ! ホームラン王だって三振もする。大事なのは今日より明日は、ほんの少しでいいからレベルアップしてる事じゃないか。

教訓、人は失敗を踏台にして、経験を積んで成長していく生き物です。