フラワーアーティストをめざして・・・・・・・・・・・・・・・・・・城戸あけみ



私がフラワーアレンジを習い始めてから、10年もの月日が経っていた。
飽きっぽい私が、よくこんなにも長い間、続けられたと思う。
それほど私は、お花が好きだったからこそ続けられたのだろう。

でも数年前から、何年経っても上達できない自分に対して、苛立ちを感じ始めていることに気づいた。
先生が作った作品をただ真似して作っているだけでは、満足感を得られないようになってしまっていたのだ。
かといって、どんな作品を作れば満足感を得られるのかもわからなかった。
心から満足できて、誰かを感動させられるような素晴らしい作品を作ってみたいと、いつしか強く願うようになった。

そんな時、いつも読んでいるフラワーアレンジの雑誌に、横浜で3月に行われる「日本フラワーアレンジメント大賞」というコンテストの募集の案内が載っているのを見つけた。
挑戦してみたいという気もしたが、場所が遠いうえ、もし運良く第1次審査を通過したとしても、コンテストに出品することなんて、とうてい無理だと思った。

でも、もし出品することができれば、誰かを感動させるような素晴らしい作品を作ることができるかもしれないし、自分自身にも、もっと自信を持てるようになるのではないかと、思いきって応募してみることにした。
第1次審査では、作品のデザイン画と花材を書いて提出することになっていた。
いろいろ悩んだ末、作品のタイトルは『命のバトン』に決めた。

若草色の細長い器をふたつ、少しずらして前後に並べ、ハート型にアレンジしたお花をふたつずつ並べて心臓に見立て、それらをピンクやブルーのワイヤーでつなげて、ひとつひとつの命がつながっているのだということを表現してみたいと思った。

だが、思ったとおり第1次審査に通過することはできなかった。
やはり自分には実力がないのだと諦めた。

ところが、年が明けた今年の1月に、突然、このコンテストの主催者の方から電話がかかってきた。
出品する予定だった方が、急に出品できなくなってしまったので、次点だった私に、もし良かったら出品してもらえないかというお話だった。
私は少し迷ったが、こんなチャンスは滅多にあることではないと思い、勇気を出して出品することにした。

ところが出品することになると、コンテストの前日に作品を作った後、メンテナンスや片付けのことを考えると、どうしても3泊しないといけなくなってしまう。
今まで家を4日間も空けたことがなかったのでとても不安だったが、娘に家事を頼めばなんとかなるだろうと思うことにした。

作品のデザインは決めたものの、すべての花材を決めるのが本当に大変だった。
ピンク系、オレンジ系、ブルー系、パープル系の4つのハート型のアレンジに使うお花をどうやって選べばいいのか、すごく悩んだ。
近所のお花屋さんに行っても、この時期はお花が少ないと言われて、何軒かのお花屋さんを周っても、なかなか気に入ったお花が見つからなかった。

特に苦労したのがヒヤシンスだった。
コンテストの前日、3月頃ならたくさん出回っていると思っていたら、どこのお花屋さんに行っても、今の時期はほとんど出回っていないと言われてショックだった。
実はヒヤシンスの花びらをひとつひとつちぎってワイヤーに通し、ハート型のフレームを作りたいと思っていたので、どうしてもヒヤシンスを手に入れたかった。
でも、どこに行っても手に入らないので途方に暮れていると、突然あることを思いついた。

お隣の庭に、ヒヤシンスがちょうど4色、綺麗なお花を咲かせていたことを思い出したのだ。
お隣の奥さんには本当に申し訳ないと思ったのだが、事情を話して、ヒヤシンスの花を切っていただけないかとお願いしたら、快く切って下さったので、本当に助かった。
感謝の気持ちでいっぱいだった。

そしてついにその日がやって来た。
当日はあいにく大雨だったので、荷物が多いというのに、本当に大変だった。
「横浜パシフィコ」という大きな会場で、12時から制作して3時までに完成させることになっていたのだが、手が遅い私が時間内に間に合うかどうか、とても不安だった。
いよいよスタートの合図があって、制作が始まった。

思っていたとおり、ヒヤシンスでハート型のフレームを作るだけで、ずいぶん時間がかかってしまった。
4つもハート型のアレンジを作るなんて大丈夫だろうか?

なんとか4つのフレームと、ひとつめの花器のアレンジが完成してほっとしていたら、「あと残り30分です」というアナウンスが流れた。
(あと30分しかないなんて!)

時間が経つのは本当に早いものだ。
あとハート型のアレンジをふたつ作って、オアシスの隙間を、お花やグリーンで埋めなければいけないというのに、たった30分で完成させるなんてできるのだろうか?

それからの30分間は、心臓がドキドキするぐらい、必死で手を動かした。
でも焦ると余計、考えがまとまらなくて、どこにどのお花を入れたらいいのかわからなくなる。
結局、入れたいと思っていたお花を入れる余裕さえなくなり、形もハート型どころか歪な形になってしまい、とにかく隙間が見えないように挿そうと必死だった。

もし間に合わなかったら、いったい私は何のためにこんな所まで来たのかと思うと、涙が出そうだった。
でも私のためにお花を集めてくれた近所のお花屋さんの店長さんや、自信のない私のことを励ましてくれた友だちや、ヒヤシンスを下さったお隣の奥さんの顔を思い浮かべると、どうしても中途半端で終わらせるわけにはいかないと思った。
何が何でも、作品を完成させたいという想いでいっぱいだった。

そして結局、終了のアナウンスが流れる直前に、やっと作品が完成した。
もう少し時間の配分を考えながら作れば、もっと満足のいく作品が作れたのに、と後悔の気持ちでいっぱいだったが、こんな大きな会場で作品を作らせてもらえただけで、私にとっては満足感でいっぱいだった。

すぐには無理だとしても、いつかフラワーアーティストとして活躍できる日が来ることを夢見てしまった。
やっぱり私はお花が大好きなんだということがよくわかった。

さっそく店長さんや友だちに無事に完成したことを報告すると、とても喜んでくれた。
思いきってここまで来て、本当に良かったと思った。

その日の夜は、港の夜景が綺麗に見えるホテルで、とても美味しいディナーを食べた。
本当にロマンティックで素適な夜だった。

明日からの3日間、どうやって過ごそうかと、期待で胸がふくらんだ。
(2010)