アジアのポピュラー音楽

ASIAN POPS

在日本 アジア音楽めぐりの楽しみとこだわり

FMポートウェイブ ジョバンニ高田

 

 

 

 

 

ソルミナ/シルバンディ

 

 

 

●ダンドゥットの生演奏を聴きながら
 マレーシアからインドネシアにかけて、ダンドゥットと呼ばれて広く大衆に愛聴されている音楽がある。先日、あるイベントの席で久々にこの生の歌と演奏を聴いた。素人芸であったが、そこは本場インドネシアから来た人達の演ずるだけあって、ダンドゥット特有の妖しい艶かしさがよく伝わってきた。
 女の子の歌う仕草も、飛び入りで舞台に上がった男性も、腰をくねらせてはいるが擦れ枯らした劣情や下心は感じられない。素朴で少しはにかんだ色香と純粋な情熱が、舞台から場内へと満ちていき、皆心地良く音楽を楽しんでいた。
 そんな情感に浸っていると、ふと最近耳にしたことが頭をよぎった。
 ある人がインドネシア旅行の誘いを断ったという。その理由が、インドネシアは危険で不衛生だから、だった。ごく当たり前の教育を受け、特別誤った認識をするようには見えない人の口から出た言葉に、少なからずショックを受けた。いまだに、こうした負のイメージでしかアジア地域をとらえられない人が、普通にいるのだ。
 ちょっと待てよ。一国の印象を、そんな簡単な言葉で片付けてしまっていいのか。当の御仁をこの場に呼んで、目の前の舞台を見せて差し上げたくなった。そうすれば、この音楽が「危なくて汚いだけの場所」からは、決して生まれてはこないことがわかってもらえるはずだ。

●FMでアジア音楽を紹介
 音楽には思いのほか多くの情報が詰まっている。たとえ言葉がわからず歌詞の意味が理解できなくても、聴いたことのない音階や楽器の音色に頭の中が混乱したとしても、それはそれで、その国の風土や社会情勢、国民の気質のある部分を感じ取ることができる。要は想像力をどれだけ働かせるかだ。よそから与えられた情報や紋切り型の風評をう呑みにしているだけでは、見えるものも見えてはこない。
 現在縁あって、三重県四日市市にあるコミュニティーFM局、FMポートウェイブの BLet's Bop Asian MusicC(毎週木曜午後9・00〜9・30)という番組におじゃまして、月に一度アジアの音楽を紹介している。
 毎回一国ずつ取り上げながら、アジア各国の音楽めぐりをしていくという企画を立てたのは、普段なかなか耳にする機会のない国のポピュラー(大衆) 音楽に触れることで、少しでもその国のことが身近に感じられるようになれば、という意図があるからだ。前述のような色眼鏡でアジアを見る人が、多少なりとも認識を新たにしてくれれば、それでいい。

●情報入手の苦労
 とはいえ、欧米と違いアジアの、しかも人的にも物的にも交流の乏しい地域の音源など、おいそれと手に入るものではない。東京や大阪ならばいざ知らず、活動の場は情報量に劣る東海地方。それでも何とかアンテナを張りつつ、できる範囲で取材に動きまわっている。
 留学生と知り合えば、この時とばかりあなたの国の音楽を聴かせてと頼み、曲にまつわる話を聞く。各国料理のレストランを見つければ、飛び込んで同じことを店員にお願いする。または旅に出る人にCD、テープを探してもらう。インターネットのオンラインショップを覗くなど、可能な限りの手を尽くす。もちろん実際にその国を旅することがあれば、現地での購入を試みる。そうこうするうちに、難しいと諦めていた国の、例えばバングラディシュやカンボジアの音源にも、きっかけができて手が届くことになる。
 むしろ難儀なのは、こうした音源の入手方法よりもその後のことで、アーティスト名や曲のタイトルを表記したその国特有の文字を、どう解読するかということ。四月号の特集からもおわかりいただけるように、アジアには実に多様な言語表記があるからだ。 そうなると、どうしても自分一人では無理なので、必然的にその国出身の方にお尋ねすることになる。取材しながら、音楽ばかりでなく食事や趣味嗜好のことまで話を伺っていくと、おぼろげながらも彼らの今が見えてきたりするので面白い。

●アジア音楽の多様性
 こうしてみると、アジアの音楽、文化の多様性と豊かさに今更ながら目の覚める思いをし、一番勉強をさせてもらっているのは、他ならぬ私自身なのかもしれない。
 ではその多様性の一例として、これまで番組で取り上げてきた中から、特に強く印象に残っている音楽をいくつか紹介しておこう。
 まずその筆頭がミャンマー(ビルマ)の歌謡曲。中でも柔らかな歌声のヘーマー・ネーウィンと、存在感のある実力派ニニ・ウィンシュイは出色。伝統歌曲の今風アレンジに加え、どこに行ってしまうのか展開の予測できないメロディーラインは新鮮。その上、一曲の中でポップな部分と伝統楽器の合奏部とを、交互に挟んで演奏してしまう大胆さ。この二人のアルバムは必聴だ。
 カンボジアではロアン・ブォンというダンスミュージックが楽しい。代表的な歌手はメェン・ぺィチェンダーとイエン・シトール。思わずリズムに合わせて軽くステップを踏み、体を揺らしたくなってしまう。強烈なのは、一見ばらばらのようで実は妙に調和している民族楽器の合奏をバックに、即興で喋るように歌うイエン・シトールの曲。聴いているうちに脳天がくらくらしてくる。
 また、雄大な自然に響きわたっていくような、ネパールの女性歌手ソルミナの伸びやかで力強い歌声は、ずっと耳に付いたまま離れない。彼女の存在を知ることができたのは、取材中の思わぬ収穫であった。
 とまあ文章での解説なので、どこまでお伝えできたか心もとない。実際に音を聴いていただくのが一番なのだが、できないのがもどかしい。

●インターネット放送でアクセス
    ――世界に広がるこれから
 それでもこのFM局は、インターネット放送をしているので、利用できる方は一度アクセスしてみていただきたい。アドレスなど詳細は、アジアウェーブ・ホームページ「アジアの音楽・舞踊・劇」及び「掲示板」にてご確認されますように。(番組は只今パキスタンからイラン、トルコとアジアの果てへ向かって西進中)
 また、www(ワールド・ワイド・ウエッブ)なので、環境を整え、タイミングよく放送にアクセスすれば、サモアのお茶の間でバングラディシュのポップスを聴くことも可能だ。これは極端な例だとしても、元々ラジオとしては可聴範囲の狭いFMが、インターネットにつながることで、ラジオ以上の働きができるようになるのは確かだ。
 事実、取材で協力していただいたカンボジア出身の方から、放送後すぐに「インターネットで聴いていました」というEメールをいただいた。まさかカンボジアの音楽が、放送されるとは思ってもみなかったので感激しました、とあった。
 どんな曲であれFMでオンエアされるということは、欧米のヒット曲と同等の扱いをされるということになる。その方はカンボジア歌謡曲の歌詞について尋ねたとき、くだらない内容です、と卑下されていたが、やはり嬉しかったにちがいない。
 一般のメディアは、いくら珍しく貴重な音源だからといっても、ただそれだけで見向きはしない。だが、敢えてそのようなアジアの音楽にスポットを当て、インターネットを介し世界的にオープンにすることで、未知の人と音楽を結びつけていく。小さな放送局の名も知れぬ番組であっても、その果たす役割は案外大きいのかもしれない。

 

 

FMポートウェイブ
「Let’s Bob Asian Music」
 三重県四日市市のコミュニティFMポートウェイブ76.8で放送中の「Let’s Bob Asian Music」(毎週木曜日9:30PM〜10:00PM)では、パーソナリティ清水ゆかりの楽しいトークと香港・台湾を中心としたアジアンポップスを、芸能情報・最新NEWSとともにON‐AIRしています。
 さらに月に1度、ゲストにジョバンニ高田氏を迎え、アジア各国の中から一つの国をピックアップして特集を組み、その国の食事、風俗、習慣、旅の情報などを音楽に乗せて紹介しています。
 これまで特集で取り上げてきた国は、ラオス、スリランカ、タイ、ベトナム、韓国、インドネシア、モンゴルです。今後は、カンボジア、バングラデシュ、ミャンマー、ネパールなどを予定しています。特に音楽について耳にする機会の少ない国を取り上げていきたいのですが、企画をする上でネックになっているのが、各国語で書かれた音源(CD・テープ)の文字が読めないこと。知り合いの留学生に聞いたり、各国料理のレストランへ行き、店員さんにたずねたり、国際交流ボランティア関係の方にお願いしたり……とにかく八方手を尽くして解読作業に奮闘中です。
それでもわからないときは、読者の皆さんに●●語の読める方はいませんか?と助けを求めるかもしれません。
 放送はインターネットで聴くことができます。

http://www.fm-pw.co.jpです。リアルプレーヤーが必要ですが、サイトから無償でダウンロードができます。


 

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