なまずの養殖池



*連載3:インドネシア「なまずの養殖」



 友人が、自宅でなまずの養殖を始めたと言うので見に行ってきた。

 なまずに関する知識がないまま行ったのだが、なかなか楽しめた。裏庭をすべて養殖池にしていて、池一つが約5平米の広さぐらい。大きさごとに分けられていて、小さいのはおたまじゃくしほどでかわいらしかった。卵を見てみたかったのだが、稚魚を買ってきて、それを養殖しているらしい。卵からとなると、ふ化させるまでが難しいのだとか。また、大きく育ってからでも死んでしまうこともあり、一筋縄ではいかないようだ。顆粒状のえさをやると、長いひげを見せながら口をパクパク我先にと水面に上がってくる。たまに鶏もえさとしてやるらしいが、そのやり方にはびっくりした。鶏一匹を棒にくくりつけて、そのまま水の中につけてしまうのだ。すぐに骨だけになってしまう。なまずが鶏を食べるなんてなんとぜいたくなと思ったが、共食いを防ぐためにも十分なえさをやらなければならないのだろう。無事に育ったなまずは、卸業者に売られていく。養殖なまずはほとんどがレストランやスーパーに出荷される。

 インドネシアでは、こういったなまずの養殖は全国的に見られる。毎日食卓にのぼる食材とまではいかないが、なまず料理を知らない人はいない。なまずをひとまず水質汚濁の井戸や田んぼに飼う人もいる。汚い水をきれいにしてくれる魚。泥臭いというイメージもあるので、調理法はシンプルに揚げたものが好まれている。焼いたりスープにしたりもできるが、そうとう香辛料を使う。やはりそれは臭み消しという目的である。

 実は今まで私はなまずを食べたことがなかった。と言うのも、日本ではあまり一般的な食用魚ではないし、ここマカッサルは海が近いため、淡水魚であるなまずは頻繁に見かけるものではない。養殖なまずは、大きいスーパーで生け簀に入ったのが売られている程度。天然なまずはたまに市場に出ている。あと、何より夫の「顔が嫌だ」という理由により、まったく我が家では買う機会がなかった。でも友人の養殖なまずを見て以来、食べずにはいられなくなって先日食べに行ってきた。一匹丸ごと揚げたもので、プチェルレレ(Pecel lele)という。



 もちろん夫はまったく口にしなかったが、私も子供たちもおいしいおいしいと言ってすぐに食べてしまった。意外にもまったく臭みはなかった。白身であっさりしているが、揚げてあるのでじゅうぶん味が濃いように感じた。私のイメージとしては、もっと皮も身も硬いもののように思っていたのだが、すぐにほぐれる身で、外はカリッと、中はほわっとやわらかい。一言で言うと、あっさりしたうなぎの味。久しくうなぎなど食べていないので、すごく懐かしく感じた。子供らもだいぶん食べたので、もう一匹頼んどきゃよかったとまで思うほど、おいしく堪能できるものだった。なまずに対する嫌なイメージが、まったくもって吹っ飛んでしまった。

 今、イスラム教徒は断食月である。私も同様に日中の飲食を絶っているので、なるべく昼間に体力を使わないように過ごしているが、どうしても倦怠感は消えない。そんなときだからこそなまずと出会えてよかった。なんせなまずは産前産後の滋養食ともなるほど高たん白で、栄養価は高い。断食はあと半月以上ある。もっと食べておいたほうがいいように思える。同じく断食している夫にもぜひ次回は勧めようと思っている。

(エッセイスト・ラフマン愛)


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