連載1:「インドネシア大統領選目前」



 インドネシアでは5年に1度の大統領選が、7月8日と目前にせまっている。どのメディアでも話題は選挙戦のことばかりで盛り上がり、選挙権のない私でさえ日々のニュースを見ずにはいられない。


 立候補者は3人。ユドヨノ現大統領、カラ現副大統領、メガワティ前大統領である。当初はユドヨノ、カラのペアで続投かと思われていた。しかし、慎重に物事を熟慮するユドヨノ氏に対し、思い立ったらすぐ実践行動派のカラ氏との間では仲違いが生じたようだ。よってユドヨノ氏率いる民主党とカラ氏率いるゴルカル党は、連立を解消することとなった。


 現在与党第1党の民主党は、今年4月に行われた総選挙でも20%以上の議席を確保している。一方ゴルカル党は14%、メガワティ氏率いる闘争民主党は15%程度にとどまっている。この3党がどれだけほかの党と連立を組むかにも票の行方は左右されるだろう。連立を組むからには、大統領候補者が副大統領候補者を連立する党から指名するのが筋と言える。しかし、ユドヨノ大統領が選んだのは無所属のブディオノ氏であった。その件に関しては、かなり内外からの反発があったようだ。ブディオノ氏と言えば、インドネシア中央銀行総裁であり(大統領選に出馬するに当たって辞任)、元経済調整相で、経済人として評価が高い。彼をパートナーとすることは、諸外国からの評価もあると見られる。また、無所属であるがゆえに中立で、自分のアシスタントとしては最適だとユドヨノ氏は考えたようだ。ブディオノ氏を副大統領候補としたことが吉と出るか凶と出るかが見所でもある。またカラ副大統領が副大統領候補者に選んだのはハヌラ党のウィラント氏であった。カラ氏は私の住むスラウェシ島マカッサル市出身である。しかし、政治の中心は首都ジャカルタのあるジャワ島であり、他島ではゴルカル党及びカラ氏の勢力があろうとも、ジャワ島ではそれほどでもない。そこでジャワ出身のウィラント氏を選ぶことによって勢力拡大をねらったようだが、所属しているのが議席数4%程度の新党なのでぱっとしない。メガワティ前大統領は、ゲリンドラ党のプラボウォ氏を副大統領として選んだが、これもまた議席数3%程度の新党なので、それほどの勢力拡大ははっきりとは目に見えない。メガワティ前大統領は、スカルノ元大統領の娘ではあるが、そんなことも一昔前の勢力図にすぎない。


 立候補者3人のメディアへの露出度はそれぞれ個性が出ている。いちばん露出度が高いのはカラ氏である。彼は有能な実務家で、ビジネスマンとしても敏腕だ。ここ最近起こったアチェ問題、ティモール問題でも内務を管轄する副大統領としての手腕が見られた。また彼は、ユーモアのある発言で親近感を持たせるのも得意だ。そういったところからアピールする狙いなのか、テレビの討論番組や一般市民との対話形式番組に毎日のように出ている。一方ユドヨノ氏とメガワティ氏はニュースでの地方集会の様子しか見られない。その集会のやり方が二人まったく違うのがおもしろい。ユドヨノ氏は、アメリカのオバマ大統領の演説を見ているかのような方法でやっている。大きな集会場に一人壇上に立ち演説する。会場にはユドヨノ氏の名前の書いたプラカードを大きく掲げる人々、そこで「YES, WE CAN!」と言ってもありえそうな状況である。メガワティ氏はというと、不衛生な市場や貧困農家集落に出向き、横1列または輪になるようにしてその場の人たちとの一体感をかもし出している。三者三様のマスメディアの利用である。


 さて、3人の政治政策の違いであるが、はっきり言って大差はないようである。大統領候補者の第1回公開討論会でも、それぞれが政策に賛同しあうようなかたちで、反対意見が出て討論するようなものではなかった。有権者たちの判断材料は、好みや出身地ぐらいだろう。実際ここマカッサルでは、カラ氏に票を入れるという人しか聞いたことがない。バリ島ではメガワティ勢力が強く、同じような状況と思われる。となるとジャワではユドヨノ氏優勢と見られる。それぞれの政策や理念がはっきりしないとはいうものの、一つ大きく分かりやすいものがある。立候補者はそれぞれテレビCMを作っているのだが、その1分もないCMの中にすべてが表れているように思う。まったくの私個人の意見ではあるが、それを見る限り、ユドヨノ氏の第一に掲げるものは「汚職断絶」、カラ氏は「インフラ整備」、メガワティ氏は「福祉の充実と地方の活性化」というふうにとれる。その中でどれを選ぶか。どれも、今のインドネシアには必要なものである。しかしまず常態化している汚職がなくならないことには、きちんとしたインフラ整備も福祉の充実も図れないのは確かだ。橋一つ作るにしろ、障害者施設を作るにしろ、すべて税金でまかなわれている。その税金を使う際にトップが一部横領してしまったり、賄賂が横行するという仕組みである。建設にしろ政策にしろまともに最後までできることがない。まずは汚職断絶だと私は言いたい。与党第1党であること、ジャワでの勢力、政策理念、総じて見るとユドヨノ氏が一歩有利と見られる。


 インドネシアの選挙では、即日開票されるが集計するのに約1ヶ月ほどかかる。なので選挙結果は8月には出るだろう。もし、上位2名が僅差なら、決選投票がその翌月には行われる予定だが、選挙をするにはかなりの税金を使うことになるので、どの立候補者も1回で決めたいと息巻いている。まだまだ発展途上な国が、これから5年間どのように発展していくか、次期大統領には2億2千万人の期待が委ねられている。ぜひともアジア、世界でインドネシアが躍進できるよう、今回の選挙を最後まで見守りたいと思う。



(エッセイスト・ラフマン愛)


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写真 立候補者番号1、メガワティ、プラボウォペア
    立候補者番号2、ユドヨノ、ブディオノペア
    立候補者番号3、カラ、ウィラントペア
    (Komisi Pemilihan Umum より)