両親とタイ・ラオス旅行@

 両親が元気であることが何よりなので、謝恩企画として一緒にタイ、ラオスに行こうと思いついた。両親はタイにもラオスにも行ったことがなく、以前から「死ぬまでに行ってみたい」とよく呟いていたので、いつか行けたらイイナ、と思っていたのだ。


 まずはバンコクに2泊して市内やアユタヤを観光した。有名どころを回ったのであるが、その手段はローカルバス、トゥクトゥク、電車、とまあ移動だけでも楽しいスペシャル盛りだくさんコースだ。両親は観光名所よりも、人々の様子や建物や植物など街そのものに強く興味を持ち、私に様々な質問をぶつけてきた。しかし「あの人、男と女どっちなの?」とイカツイ女の性別を問われても、私が見たって微妙なわけで真実はわかるはずもない。娘がタイの全てを知っていると思っているようである。


 両親は田舎だと思い込んでいたバンコクが意外と洗練された大都会であることに驚いていた。しかし反面、高層ビルが並ぶ隙間には考えられないような貧民街、溢れるゴミ、毛の抜けた野良犬……などが溢れている不調和ぶりに「どうなってるの?!」とタイ政府に一喝したい様子でもあった。こういうもんである。完璧すぎる日本の都会の方が出来すぎなのだ。アンバランスな街の全てが刺激的のようで、いちいち驚いちゃってる反応が私にとっては新鮮だった。


 さて、そんな街からたった2時間のフライトで到着するラオスのルアンパバーンは、さらに驚きの別世界である。国内第2の都市であるし、街そのものが世界遺産という観光地に間違いない。でもでも、超のどかなのだ。私は8年ぶり5回目のルアンパバーン。久しぶりだというのに全然変わってない。発展がのろい、ナイスなペース、やるなラオス……という印象である。


 民族衣装の巻きスカート「シン」を着ている人がいっぱいいる。信号のない道、高床式の民家、天秤で野菜を運ぶ人、のんびり歩く牛……お父さんお母さん見て見て! あっちもこっちもうららかすぎ! 突っ込み所が多すぎ!


 ホテルのチェックインが済み、さっそく辺りを散歩してみた。市場をウロウロ見学すると、豚鶏はもちろん、虫、ねずみ、へび、かえる、得体の知れない何か、などが並べられ、その上をハエが飛びまくり、母は「ギャー」と年甲斐も無く軽い悲鳴をあげ、父も「すごいなココは……」とびびっている。市場はどこの国も楽しいけれど、ラオスは格別に面白いものが並んでいると思う。「何だろうね、コレは」という物率が高いのだ。


 ところでルアンパバーンってお寺がたくさんある。袈裟を着た僧侶がいっぱいいて、その仏教っぷり、信心深さっぷりが魅力だ。通りがかりのお寺を覗くと、僧侶たちがのんびり仏像を作っていた。日本人が思う「のんびり」より更に2倍のんびりとお考えください。針金で骨を作り、セメントで肉付け。まだ肉付きが薄く、仏様激ヤセ状態だ。なかなか上手だけどさ、あのね、土産で売っていそうなバナナくらいの大きさの木の仏像を見ながら作ってるの! お手本がチャチな上、ヘラヘラしながらノンキに作っているこの仏像に、将来拝む価値、そしてご利益は期待できるだろうか。


 仏像製作班の隣には、椰子の実班がいて、薪割りのようにナタで椰子の実を割っていた。こちらのチームは刃物を使っているという点で緊張感があるのかと思いきや、やっぱり恐ろしくヘラヘラしている。母が、「椰子の実って飲めるんでしょ?」と思いついたように言うので、これは経験としてぜひ飲ませてあげたいと思った。そこで班長らしき青年に「飲ませてくれる?」と言ってみたら、ハニカミの笑顔で「いいよ」と答えてくれたのだ。だからラオス人って好き。子分と思われる小さい子がコップを3つ用意して、それに並々と椰子ジュースを注いでくれた。多いな。薄い白濁の液体におそるおそる口をつけた両親は、露骨に渋い顔で「まずいねぇ」と言い、「ぬるいし」と付け加え、ほとんどを残してコップを置き、「おいしかった、って言ってー」って、嘘つけバレてるわっ! 私も椰子ジュースは苦手だけれど、一応ゴクゴクと3口ほど気を使って飲んだ。こんなもん飲めるか冷えたビール持って来い、って感じであるが、飲ませて欲しいとお願いしたのはこちらである。味はどうであれ、貴重な経験をさせてくれたぞ。


 あれ、あっちに教室みたいなのがある! 寺なのに学校?? ということでワクワク覗いてみると、「Confusion!」と誰かが叫んでいたので、何事かと心配して駆けつけたら、なーんだ、イングリッシュの授業じゃあーりませんか! 僧侶と一般人が一緒に学んでいる。先生は白人のおばさん。本物の英語が学べているようである。


 ここでは日本語の授業もあるようで、教室の壁には愛嬌ある日本語の表が・・・日本人ならつい上から目線でじっくり見たくなる。だんご、じゃないよ、単語! 言いたいことはいろいろあるが、つまり全てがかわいらしく、なんとも微笑ましい。両親もしばらくニヤけた表情を浮かべながらじっくり見入っていた。


 僧侶って恵まれているなー。仏像作りから語学まで、修行の中でいっぱい学ぶんだね!


 さて、さっきから賑やかな子供の声が聞こえてきていて気になっていた。隣は小学校のようである。そろそろ僧侶の皆さんにバイバイをして、そちらに移動しよう。


 そこはチビっ子たちが元気に大騒ぎ。幼稚園児から小学生くらいの子がいる。ズカズカ中に入っていくと、父が「おい、いいのか?」と不安顔。いーの、いーの!理由はここがラオスだから。教室に近づくと、子供たちが寄ってきて、奥にいる先生も私たちに気づき、何かモゴモゴ食べながらニコっと笑って「こんにちは」と言ってくれた。「中に入ってもいい?」と聞いたら「いいよ」と快諾。んもうー、だからラオスが好きなんだ。固いことは言わないよ。子供たちに年齢を問うと、同じ教室にいるのに5歳とか6歳とか8歳とか超バラバラ。自由だね〜。父が写真を撮りまくり、それをデジカメの再生モードで子供たちに見せてあげたら、すごいチビ山のチビだかり。みんなキャッキャッと喜んでカメラを覗き込み、成田空港に到着したヨン様よろしく、お父さん大人気! 父の人生で後にも先にも、こんな人に囲まれることはきっとない。


 父も母も、ラオスにいることがとても嬉しそうであった。父は「タイよりいいな」と、タイにだって2泊しかしていないし、ラオスにだってまだ数時間しかいないのに、早々結論を出していた。母も「今まで行った国のどこよりいいよ」と大層気に入っている。街をブラブラしているだけで次々と楽しいことが起こるのだから仕方ない。


 明日はボートをチャーターして、メコン川をクルーズしよう! そんな話をしながら、夜はラオス料理、ビアラオ(ラオスビール)で盛り上がった。両親はラオスの主食もち米に日本から持参したゴマ塩を振りかけて食べ、それがおいしいからといって店員のラオス人たちに無理やり食べさせ、彼らを困惑させていた。



つづく。


(エッセイスト・桂川)

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