連載6:「バティック」









 インドネシアのバティックが、ユネスコの無形文化財に認定された。バティックというのは、ろうけつ染めの布地のことである。蝋で防染し、模様を作りだす染色方法で、綿、シルク、レーヨンに用いられる。できあがった布地は、腰巻きや衣服など、いろいろなものに加工される。別名では、ジャワ更紗とも呼ばれている。

 バティックの種類は4種類あり、すべて手描き模様のものがもっとも高級である。熟練した職人でも、一枚の布地の染色に二ヶ月かかり、緻密かつ手間のかかる作業である。また、型押しで模様をつけるものは、手描きに比べると早く量産できる。その他、型押しと手描きを組み合わせたものもある。最近ではスクリーン印刷によるバティック風プリント柄のものも安価で量産されるようになったが、厳密に言うとそれはバティックではない。まず溶かした蝋で線描きし、その後染めるのだが、多くの色を使う場合、その都度染める作業を繰り返すので、色とりどりのものほど高価になる。

 18世紀に始まったバティックは、当初王族の衣服のために用いられ、その模様は地域によってさまざまな違いが見られた。動物、建物、影絵芝居のものなど時を経てそれらは融合され、確立されてきた。そして一般庶民にも広まったバティックは、第一次世界大戦後はインドネシアの国民服となった。もうどこへ行ってもバティックを着た人、バティックでできたものを見かけることができる。ちなみに今年10月2日はバティックデーとされ、国民みんなバティックを着ましょうという日となった。柄が細かく派手なシャツは、浅黒く彫りの深いインドネシア人にはよく似合う。特に男性であれば大柄の人、ユドヨノ大統領なんかは本当にいつもサラッと着こなしている。国会やその他の公の場でも、大統領及び議員のバティック着用率は高い。また、決まった制服のない役所では、金曜はバティック着用の日と決まっている。日本で言うところの着物のようなものだと言う人もいるが、着物以上に普段の着用率は高いと言える。


バティックの服を着たユドヨノ大統領(右)(FAJARより)


 このように国民に好まれているバティックであるが、実は夫も私も持っていないし着たことがない。半年前の息子の卒園式では「両親ともにバティック着用のこと」と招待状に書かれていたのだが、結局普通のフォーマル服で行ってしまった。ただ単に似合わないからといえばそれだけのことなのだが。私は色の白いのっぺり顔の日本人だし、夫は非常に細い。でっぷりとした年配の人のほうがよく似合う。でも常にあこがれは持っている。バティックはインドネシアの独自性とその誇りである。手にとってみると、その一つ一つに個性があり、味がある。王族たちが魅了されてきた芸術が今もなおそこにある。ユネスコの無形文化財認定というきっかけで、私も夫もバティックと言う芸術に身を包みたくなった。ぜひ今度、娘の卒園式にはバティックの服で行こうと約束したのだった。


(エッセイスト・ラフマン愛)



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バティック(batik indonesiaより)


染色工程 (batik indonesiaより)


バティックの品々