連載4:「インドネシアのあいさつ」
インドネシアのあいさつで最も使うのは、
“assalamu ‘alaikum”(アッサラーム アライクム)
である。これはイスラム教徒に共通して使われる言葉で、意味は“あなたに平安あれ”。日本語の意味だけを見るといつ使ってよいのかピンとこないが、いろいろな場面で使える。人と会ったときの「こんにちは」、訪問するときの「ごめんください」、帰宅したときの「ただいま」、電話での「もしもし」、別れを告げるときの「さようなら」これらすべて、「アッサラーム アライクム」でよい。言われたほうは、
“wa‘alaikum salam”(ワライクム サラム)
と返事する。これはインドネシアだけでなくイスラム諸国でも通じる言葉なので、覚えておくときっと役に立つだろう。
しかし、インドネシアが世界最大のイスラム教徒を抱える国とはいえ、地域によってはキリスト教徒やヒンドゥー教徒もおり、話す人によっては「アッサラーム アライクム」と言わない場合もある。そんなときは共通のインンドネシア語のあいさつがある。
例として、
おはよう:selamat pagi(スラマッ パギ)
こんにちは(10時〜15時):selamat siang(スラマッ シアン)
こんにちは(15時〜18時):sekamat sore(スラマッ ソレ)
こんばんは(18時以降):selamat malam(スラマッ マラム)
このように日本語に対応できるような言葉なのだが、日常生活でこれらの言葉を使っている人がいない。私は4年以上インドネシアに住んでいるが、ホテル・デパートの店員、セールスの電話以外でこれらのあいさつ言葉を言っている人を見たことがない。では、朝ご近所の人と会ったらどうするかというと、目が合えばニコッと微笑む。そして眉毛と首を一瞬上に上げる。これだけ。あいさつが日常生活とかけ離すことができない国からやってきた私にとって、そのあいさつは当初もやもやの連続だった。しかも人に対して頭を上げるってどういうこと?
下げるのが礼儀じゃないか、なんてことも思ったりしていた。しかしそんなのは慣れ、インドネシア式のあいさつだと郷に従い、今では眉毛が上下によく動くようになった。
さて、9月20日はイスラム教徒の断食明け大祭(レバラン)であった。1ヶ月の間、日中の飲食喫煙を絶つラマダン月(断食月)を終え、日本のお正月のように、新年を祝いあうため親戚を訪ねて行く。この日、私もいろんな人に会ってあいさつしてきた。断食明けのあいさつは、
“Mohon maaf lahir dan batin”
(モホン マアフ ラヒル ダン バティン)
意味は、今まで悪いことをしていたら許してください。もう少し砕けて、「去年はお世話になりました」とでも言おうか。お正月の「明けましておめでとうございます」とは少しニュアンスが違う。
あと、握手は欠かせない。インドネシアの握手は、お互い握り合うのではなく、平らにした両方の手の平でお互いの手をサンドし合う。その後その両手を胸に持っていく。女性同士であれば頬を交互に合わせる。子供と大人であれば、右手同士握手したまま離さずに、子供が大人の手の甲を自分の額に持っていく。今年も、一通りこんなあいさつを親戚と交わしてきた。断食月を終えた後のあいさつは、とてもすがすがしい気分である。来年の断食月まで、人と人との交流『眉毛あいさつ』で穏やかに過ごしていけるよう願っている。
(エッセイスト・ラフマン愛)
HOME